オススメの書籍:国際税務に関する本を10冊以上まとめてご紹介
国際税務に関する本の紹介記事のニーズが高いみたいなので、以下で分野別にまとめておきます(随時更新中)。
Table of Contents
1. 入門書
まずは入門書からです。
入門書に関しては、「入門のための入門書」よりは、実務で難しいことをやっておられる先生方の著書のほうが個人的には好みです。実務で将来的に難しいことをやる前提であれば、そっち方向にレールが敷いてあるほうがいいという趣旨です。
(1) 『よくわかる国際税務入門』
入門書のオススメ1冊目は、『よくわかる国際税務入門』(三木 義一(さん)・前田 謙二(さん)著)です。
私が国際税務の入門書を読んだのはずいぶん昔のことですが、これはとにかくわかりやすくて、お気に入りでした。2012年の第3版が最新のようなので、ちょっと古いのですが、これはオススメです。
前田先生はセミナーなどでご存知の方も多いと思いますが、あのわかりやすい講義をイメージして頂けるといいと思います(共著ですけど)。
(2) 『これだけは押さえておこう 国際税務のよくあるケース50(第3版)』
もう少し新しいものなら、『これだけは押さえておこう 国際税務のよくあるケース50(第3版)』がいいと思います。なぜだかわからないのですが、この本は「国際税務ってこんな感じ」という私のイメージにピッタリ合います。
この本の特徴は以下のとおりです(詳細はこちら)。
特徴② 1ケース読み切り
特徴③ 理論よりも実務
ケースごとに実務で使う知識をまとめている本なので、制度ごとに条文を追いながら国際税務を勉強したい方には向きません(そういう方には、次の本のほうがいいと思います)。
(3) 『国際取引と海外進出の税務』
『これだけは押さえておこう 国際税務のよくあるケース50』とは対照的なのが、『国際取引と海外進出の税務』(仲谷 栄一郎 (さん)、井上 康一(さん)他 著)です(比べたら怒られそうですが)。
この本は、入門書という括りではないですが、国際税務をイチから体系的に学ぶには最適な本なので、敢えてここでご紹介させて頂きます。
とにかく体系的に書かれているので、ある程度実務をやっておられる方でも、頭の整理に使えると思います。
なお、どちらかというと、アウトバウンド(日本企業の海外進出)よりはインバウンド(海外企業の日本進出)のほうが内容が充実している印象です(紹介記事はこちら)。
2. 国際税務全般
次に、国際税務全般を取り扱っているBig4の書籍です。
すごく読みやすいという感じではないのですが、やっぱり内容の信頼性が重要だという方には、以下の『国際税務の実務ハンドブックQ&A(第2版)』(デロイト トーマツ税理士法人)と『国際税務ハンドブック(第4版)』(PwC税理士法人)がいいと思います。
(1) 『国際税務の実務ハンドブックQ&A(第2版)』
まず、『国際税務の実務ハンドブックQ&A(第2版)』(デロイト トーマツ税理士法人)のほうです。
こちらは、国際税務に関する論点を、進出、展開、撤退の3つのフェーズに分けて解説しています(どこかで聞いたことあるようなフェーズ分けだなあ。しかもQ&A形式)。なので、法人税が中心ですが、ビジネスの流れに沿って、国際税務の論点を整理したい方にはオススメです。
また、2020年に出たものなので、比較的新しいです。
(2) 『国際税務ハンドブック(第4版)』
もう1つは、『国際税務ハンドブック(第4版)』(PwC税理士法人)です。
この本は、国際税務の制度ごとの解説です。法人税以外でも、消費税や(国際)資産税などもカバーしており、税目で見れば、トーマツさんの本より幅広い分野に対応しているといえるかもしれません。
ただ、2017年に出たものなので、改訂待ちが無難な気はします。
3. 移転価格税制
続いて、法人税の制度ごとに見ていきますが、まずは移転価格税制に関する書籍です。
(1) 『実務ガイダンス 移転価格税制』
この分野でオススメの本は、『実務ガイダンス 移転価格税制(第5版)』(藤森康一郎(さん)著)です。
私がちゃんと読んだのは、第2版と第3版で、その後の版は流し読みですが、普通にいい本だと思います。
そして、ネタにしづらい正統派です(というか、何となく絡みづらい感じ)。
(2) 月刊『国際税務』の連載:TP Controversy Report
『実務ガイダンス 移転価格税制』くらいの内容がだいたい頭に入っているようなら、月刊『国際税務』の「TP Controversy Report」(EY税理士法人の先生方)という連載がオススメです(雑誌ですけど)。
月によるのですが、なかなかエッジが効いた内容が含まれていることがあるので。
移転価格税制は、あんまり税務のお話でもないので、「いま議論されていること」をつかむために、継続的に雑誌で最新情報を追っていくほうがいいのではないかと思います。
4. タックス・ヘイブン対策税制
次に、タックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)に関する書籍です。
『2020年度税制改正後のタックス・ヘイブン対策税制』
この分野でオススメの本は、『2020年度税制改正後のタックス・ヘイブン対策税制』です。
KPMG税理士法人の菅先生との共著です。
タックス・ヘイブン対策税制は複雑な税制なので、この本では「いかに制度の大枠をつかんで頂くか」を重視しており、そういう趣旨で、各章の最初に図解や単純化した解説を多めに入れ、全体像を見えやすくしています。
一方で、「必要な部分だけを読みたい」というニーズに応えるべく、Q&AのQを細かく分けています(詳細はこちら)。
5. 外国税額控除
引き続き、法人税の関係で、外国税額控除に関する書籍です。
(1) 『外国税額控除/外国子会社配当益金不算入制度と申告書作成の実務』
この分野、オススメの本がないんですよねー。
ちょっと前の本なら、『外国税額控除/外国子会社配当益金不算入制度と申告書作成の実務―基礎の習得から申告書の完全作成まで』(トーマツ著)という本があります。
が、2015年の第9版が最新のようなので(たぶん)、さすがにちょっと古いかもしれません。
この本、いい本だったのになあ。改訂してほしいなあ。
(2) 月刊『国際税務』の記事:外国税額控除の申告実務ケーススタディ
本がないということで雑誌です。
外国税額控除の分野では、月刊『国際税務』に毎年掲載される「外国税額控除の申告実務ケーススタディ」(板野佳緒里(さん))という記事がオススメです。
この記事を読めば、別表の書き方がだいたいわかります。そして、何か教え方が優しいです(易しくはないですけど)。
たぶん多くの人が読んでいると思うのですが、いい書籍がないので、念のため挙げておきます。
6. 消費税
続いて、法人税以外の税目ということで、国際取引の消費税に関する書籍です。
『国際取引の消費税QA』
この分野は『国際取引の消費税QA(七訂版)』(上杉 秀文(さん)著)で決まりです。
私は普段の仕事で、(国際取引の)消費税について何かわからないことがあったら、この本を調べています。
Qの数が多いのもいいのですが、一つ一つのAがしっかり書いてあるのもいいところです。特に、消費税は、前提条件によって答えが大きく変わってくるのですが、回答にあたって、その場合分けがきっちりされています。
また、答えのないQに対して、豪快に私見(のレベルを超える私見)を書いてくれているのも助かるポイントです。
あらかじめこういう本に目を通しておいて、「ああ、このあたりに、こんなこと書いてあったな」と記憶にとどめておけば、調べ物を効率化できると思います(紹介記事はこちら)。
7. 源泉所得税
同じく、法人税以外の税目ということで、国際取引の源泉所得税に関する書籍です。
(1) 『事例でわかる国際源泉課税』
この分野なら、『事例でわかる国際源泉課税(第3版)』(牧野 好孝(さん)著)でほぼ決まりです。
消費税が上杉先生なら、源泉所得税は牧野先生ということで、わかりやすいだけでなく、実務に寄り添って書かれた本だと思います。
「これってどうなのかな?」と疑問に思ったときは、この本を開くと、答えが書いてあることが多いです。しかも、わかりやすい(紹介記事はこちら)。
(2) 『租税条約適用届出書の書き方 パーフェクトガイド (第4版)』
また、国際取引の源泉所得税については、ほぼ必ず租税条約が関係してくるので、租税条約に関する届出書の書き方で悩むことも多いと思います。
そんなときは、『租税条約適用届出書の書き方 パーフェクトガイド (第4版)』(牧野 好孝(さん)著)です。
『事例でわかる国際源泉課税』と同じく、牧野先生の本ですね。
租税条約に関する届出書については、書き方がわからなくて、顧問税理士さんに確認されることもあるかと思いますが、その顧問税理士さんもたぶんこの本を参考にしていると思います(笑)。
『事例でわかる国際源泉課税』とセットでどうぞ。
8. 海外の税制
ここまでは日本の税制に関する書籍でしたが、海外の税制に関する書籍も少しだけご紹介します。
といっても、海外の税制を調べるとき、個人的にはあまり書籍は使いません。基本的に現地の専門家が出しているニュース・レターをチェックして、月刊『国際税務』(下のほうでご紹介しています)の記事で裏を取る感じです。
(1) 『欧州主要国の税法(第3版)』
なので、敢えてご紹介するなら、という感じなのですが、『欧州主要国の税法(第3版)』(デロイト トーマツ税理士法人)という本は、個人的に何度かお世話になりました。
欧州の買収案件は複数国が対象になる場合が多く(個人的な経験として)、そういった国々の税制の概要をまとめて把握したかったので、この本はすごく使い勝手がよかったです。
もちろん、国によって書き方にバラつきがあって、当たり外れはあります。ただ、日本語で読めるものだと、欧州の税制に関する情報はアジアのそれに対して比較的少ない印象なので、トーマツさんが書かれている本ということを併せて考えると、すごく貴重な本ですよね。
欧州にいっぱい子会社があるなら、1冊手許にあると便利な本だと思います。
(2) 『ASEAN諸国の税務』
アジアについては、『欧州主要国の税法(第3版)』のアジア版として、『アジア諸国の税法(第8版) 』がありますが、2013年が最新なので、さすがにちょっと古いです。
その意味では、「ASEAN」という括りですが、『ASEAN諸国の税務』(KPMG/KPMGジャパン)がオススメです。
これは、2021年の本なので、新しいです(紹介記事はこちら)。
ただ、ASEAN加盟国のうち、ブルネイを除く9か国が対象です。インドネシア・カンボジア・シンガポール・タイ・フィリピン・ベトナム・マレーシア・ミャンマー・ラオスということですね(中国やインドは入っていません)。
(3) 海外進出の実務シリーズ
国別のものなら、海外進出の実務シリーズ(EY新日本有限責任監査法人)は、さらっと読みやすいです。
タイトルは『(国名)の会計・税務・法務Q&A』で、比較的新しいものだと、以下があります。
シリーズを通して、「税務だけを深く知りたい」というニーズよりは、「会計や法務も含めて広く知りたい」というニーズに応える本だと思います。
9. 税務の英語
また少し話が変わりますが、国際税務に英語はつきものです。海外の税制を調べるときにも、最新の情報を取りたければ、英語は必須です。
ただ、この「国際税務で使う英語」という分野については、オススメの書籍というのは難しいです。
一応、(会計や)税務に関する英語の勉強法については、以下の記事にまとめたので、以下では、そこから少しだけ抜き出してお伝えします。
(1) 『英和・和英 海外取引で使える会計・税務用語辞典』
国際税務のような専門分野の英語を学ぶとき、圧倒的に重要なのは単語だと思います。
会計・税務分野の英単語を扱った本はいくつかありますが、それぞれ扱っている単語の傾向が異なる(気がする)ので、現物を見て、好みに合うものを探されるといいと思います。
私が書いた本であれば、『英和・和英 海外取引で使える会計・税務用語辞典』というものがあります。
『英和・和英 海外取引で使える会計・税務用語辞典』(佐和 周 著)(Amazon)
この本は、どちらかというと、アウトバウンドの視点中心に書いてあるので、インバウンドが専門の方など、日本の税制を英語で説明する機会が多い方には向きません。
(2) 『すぐに使える! 税務の英文メール』
もう1つ、これはメール(文章)の書き方を扱ったものですが、『すぐに使える! 税務の英文メール』(デロイト トーマツ税理士法人の先生方著)があります。
英文メールの書き方については、海外(特に米国や英国)の担当者と定期的にメールのやり取りがあれば、自然に身につきますが、そういう環境がないと、自分だけでトレーニングするのはなかなか難しいのではないでしょうか。
この本は、そういうお困りごとを抱えておられる方にオススメです。文例が多いので、それを真似してメールを書くことができます。
また、この本のいいところは、「英語がちゃんとしている」ところで(厳密に日本語と対応しているかどうかは不明)、安心してそのまま使うことができます。
10. 最後に
最後に、上記のすべてをカバーする雑誌として、月刊『国際税務』があります。
上のほうでもご紹介しましたが、国際税務といえば、この雑誌です(紹介記事はこちら)。
購読されている企業も多いと思いますが、一定規模の海外事業があれば、「読んだほうがいい」というよりは、「読まなければならない」種類の雑誌だと思います。
契約があればウェブ上(「国際税務データベース」)でバックナンバーが読めるので、私は移動のときなんかに読んでます。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。