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佐和周のブログ

移転価格税制

第1回 移転価格税制におけるDCF法とは

今回から、また移転価格税制の新シリーズです(移転価格税制コモディティ化計画の目次はこちら)。

 

1. 「無形資産の譲渡取引とDCF法」シリーズ

今回のシリーズでは、最後の独立企業間価格の算定方法として、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(Discounted Cash Flows Method:DCF法)を見ていきます。主に無形資産の譲渡取引に関係するものなので、「無形資産の譲渡取引とDCF法」シリーズということで。

独立企業間価格の算定方法としてのDCF法は、2019年度税制改正で導入されており、比較的新しいものです。といっても、実務では昔から使われていました。

2. DCF法のDはdiscountかdiscountedか

まず、このディスカウント・キャッシュ・フロー法については、どうしても言いたいことがあります。

税務の世界では、「ディスカウント」・キャッシュ・フロー法と言ってますが、Discountedですよね? キャッシュ・フローはdiscountするのではなくて、discountされるのだから、discountedじゃないかと。まあ、いいか。

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3. 租税特別措置法上の定義

まずは定義からです。租税特別措置法(66の4②一ニ)及び租税特別措置法施行令(39の12⑧六)では、DCF法は、以下のように定義されています。

国外関連取引に係る棚卸資産の販売又は購入の時に当該棚卸資産の使用その他の行為による利益(これに準ずるものを含む…)が生ずることが予測される期間内の日を含む各事業年度の当該利益の額として当該販売又は購入の時に予測される金額を合理的と認められる割引率を用いて当該棚卸資産の販売又は購入の時の現在価値として割り引いた金額の合計額をもつて当該国外関連取引の対価の額とする方法

特に読んで頂く必要はないです。上記では割り引く対象は「利益」とあるのですが、通達で「これに準ずるもの」には、キャッシュ・フローが含まれることとされています。

1つ引っかかるとすれば、上記の定義では、「棚卸資産の販売又は購入」とある点でしょうか。

これは他の独立企業間価格の算定方法と同様、DCF法も棚卸資産について規定しているものと捉えてください。ただし、実際にこのDCF法を使うのは、無形資産の譲渡取引などがメインだと思うので、基本は「DCF法と同等の方法」になるということです。

この「同等の方法」とは、国外関連取引が棚卸資産の売買「以外」の取引である場合に、独立企業間価格の算定方法に付けて使う表現でしたよね(詳細はこちら)。

4. 租税特別措置法上の定義を日本語で

移転価格税制におけるDCF法をシンプルにいうと、「無形資産の使用等による予測利益の金額を一定の割引率を用いて現在価値として割り引いた金額の合計額を独立企業間価格とする方法」ということになります。

予測利益という用語はありますが、普通のDCF法と考えて頂いて大丈夫です。

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5. DCF法の特徴と位置付け

DCF法の特徴を一言でいうと、「比較対象取引を見つけられず、かつ利益分割法を使えない状況でも使える方法だけど、予測利益とか適当な計算をするものだから、優先順位としては一番下」ということです。

(1) 独立価格比準法は使いづらい

順番に考えていくと、無形資産の譲渡取引については、あくまでも理論的にはということですが、独立価格比準法(と同等の方法)を適用できる可能性はあります。

同種の無形資産の譲渡取引を見るわけですね。

ただし、譲渡の対象が国外関連取引に係る無形資産と同種であり、かつ、譲渡の条件が国外関連取引と同様であるような、比較対象取引(無形資産の譲渡取引)が見つかれば、という条件が付きます(その他、原価基準法と同等の方法も検討の余地はあります)。

普通に考えて、そういう比較対象取引はなかなか見つからないですよね。無形資産なので。

(2) DCF法は使いやすい

DCF法は、このように比較対象取引を見いだすことが困難な場合でも使えます。なぜなら、予測利益とか適当な数字を置いて、適当に計算するだけだからです。これがDCF法の長所といえます。

(3) DCF法は優先順位が低い

この長所は利益分割法と似ていますが(利益分割法についてはこちら)、DCF法は利益分割法よりも優先順位が低いものです。 

言い換えると、最も適切な方法の候補がDCF法を含めて複数ある場合には、DCF法「以外」の候補の中から最も適切な方法を選定するのが基本になります。

これは、DCF法が、予測利益の金額のような不確実な要素を用いて独立企業間価格を算定する方法だからです。この点がDCF法の短所といえるかもしれません。

DCF法の適用にあたっては、独立企業間価格を算定するための前提となる事項について、検証可能で合理的な情報を入手できることが前提になります。それができない場合には、DCF法を適用することはできません。

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6. 無形資産取引以外でDCF法を使う場合

DCF法は、純粋な無形資産の譲渡取引のみならず、事業譲渡取引に対しても適用可能です。

従来から実務ではそのように使っていたと思いますし、財務省による税制改正の解説でもそのような記載があったと思います(記憶は定かではないです)。参考事例集においても、以下の記載があります。

事業譲渡取引のように無形資産が他の資産等と一体として譲渡される場合においては、譲渡の対象となる事業全体の予測利益の金額につき、合理的と認められる割引率を用いて算出した各事業年度の割引現在価値の合計額を事業譲渡取引の対価の額として算定できる場合がある

ただ、これには取引単位の問題もあるので、注意してください。複数の取引を一の取引として独立企業間価格を算定してよいか、ということです(取引単位の問題についてはこちら)。

今日はここまでです。次回は、このブログの趣旨から外れますが、無形資産の持ち方についてお話したいと思います。

では、では。

■移転価格税制に関するトピックの一覧はこちら

 

この記事を書いたのは…
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら

 

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