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佐和周のブログ

会計一般

収益認識会計基準の適用で、輸出取引の収益認識はどうなるか

週末なので、雑談です。雑談といっても、お仕事のお話ですけど。

今日は仕事のこと

私のお仕事では、日々企業の方々からご相談(主に海外関係)を頂くのですが、やはり時期によって、ご相談の内容が偏ったりします。今多いのは、収益認識に関するお話で、海外取引に関していえば、輸出取引や無形資産のライセンス取引・各種役務提供取引などがよく問題になっているようです。

もちろん、重要な取引については、収益認識会計基準が公表された段階である程度詰められているはずなので、この段階で出てくるものは、それほど重要ではない論点なのだと思うのですが。

ということで、今日は、輸出取引に係る収益認識について雑談します。

【2020年9月追記】
無形資産のライセンス取引については、以下の記事があります。
収益認識会計基準の適用で、ライセンス契約の収益認識はどうなるか

この話の要点

が、今回は長いので、先に結論だけ書いておきます。

輸出取引の収益認識は、収益認識会計基準の適用によって、ほとんど影響を受けないはずです。

でも、実際はそんなに簡単な話じゃないので、そういうことも含めて雑談したいと思います。

収益会計基準や適用指針に何が書いてあるか

まず、輸出取引について、収益認識会計基準や適用指針に何が書いてあるかですが、特に何も書いてありません。適用指針の第98項に、「国内の販売において、出荷時から商品・製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合には、例えば、出荷時に収益を認識することができる」という規定があり、「国内の販売」と特定されていることから、輸出取引の場合はそれがダメなんだろうなという程度です。

貿易条件の理解が必要

じゃあ、実務上は何を手掛かりに収益認識のタイミングを検討するかということですが、これは従来と同じで「貿易条件」です。

貿易条件とは文字どおり、貿易取引における費用負担や危険負担等の条件をいいますが、この貿易条件については、国際的に統一された定義を取り決めたインコタームズ (Incoterms)というものが存在します。

具体的な貿易条件としては、FOBやCIFなどをよく耳にしますが、これらはいずれもインコタームズに規定があり、貿易取引における運賃・保険料やリスクの負担等の条件(売主・買主のどちらが負担するか)を定めたものといえます。

ちなみに、某大手監査法人の収益認識に関する書籍で、「インコタームズ」のことが「インターコムズ」って書いてありました。インターコム(intercom)って、身近なものでは「ピンポンダッシュ」でいう「ピンポン」ですよね。なので、「インターコムズ」ならその複数形で、ピンポンが複数あると(ピンポンダッシュなら連射)。本を書いていると誤字・脱字はどうしても出てきますが、これはヤバい。すごくわかりやすくていい本だったので、他人事ですが、増刷時や改訂時に修正されているといいな、と切に願っています。

話を戻すと、注意して頂きたいのは、インコタームズでは、所有権の移転には触れていないという点です(インターコムズって書きそうになった)。書いてあるのは、あくまでも費用負担と危険負担についてだけです。支配の移転を考えるときには、法的所有権の移転もチェックする必要がありますが、そういう局面では、売買契約書の所有権の移転条項などを確認しないといけないですね。

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具体的な貿易条件11種類(FOBやCIFなど)

真面目な話ですが、インコタームズ(2010年改訂)には、11種類の貿易条件(「規則(Rules)」)が規定されており、大きく①あらゆる輸送形態に適用される規則(Rules for Any Mode or Modes of Transport)と②海上及び内陸水路輸送に適用される規則(Rules for Sea and Inland Waterway Transport)の2つに分類されます(下図参照)。

上図を見ると、よく見かけるFOBやCIFといった貿易条件は、いずれも②海上輸送に関する貿易条件に属しており、航空輸送には用いない用語だということがわかります。

輸出取引の収益認識に係る基本的な考え方

輸出取引には、様々な貿易条件や契約条件があるため、従来から輸出取引の売上計上タイミングについては、実務上、一定の幅があったと思います。私の知る限りでも、「え、それ出荷基準でいいんですか?」とか「え、通関日ってそんなに重要なんでしたっけ?」みたいな実務がいっぱいあり、少し前までは、誰もあまり細かいことを言わない平和な世界だったのではないでしょうか。

個人的にはそれでいいと思うんですけどね。輸出件数がある程度多い状況なら、一定のルールに従って機械的に処理していけば、どうやってもそんなに大勢に影響はなく、投資家もそんなこと気にしないんじゃないかと思います。

でも、収益認識会計基準が入ったので、この点を真面目に考えないといけなくなりました。通常の輸出取引であれば、一時点で充足される履行義務という位置付けになると思うので、そうすると、「資産に対する支配が顧客に移転したタイミングがいつなのか」を考えて、その時点で収益を認識することになります。

この点、上記のとおり、収益認識会計基準や適用指針では、輸出取引の収益認識タイミングに対する言及はないので、個別の契約ごとに、製品(貨物)に対する支配が買手に移転するタイミングを確認していく必要があります。教科書的には、顧客による検収のほか、法的所有権や物理的占有の移転、所有に伴う重大なリスクの負担や経済価値の享受の関係などを見ていかないといけないですね。

こと輸出取引については、物理的な占有が移転したり、顧客が検収したりするのはだいぶ後になるので、資産の所有に伴う重大なリスクが顧客に移転するタイミングが特に重要になると考えられます。

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輸出取引の収益認識は何か変わるのか

こういう考え方に基づいて、リスク(危険)負担を定める貿易条件を見るべき、という流れになるわけですね。

よくあるケースということで、FOBやCIFといった貿易条件では、いずれも本船への引き渡し時点でリスクが移転します。だから、船積時点で売上計上(収益認識)するというロジックになります。

要は従来と同じで、収益認識会計基準の適用の影響はほぼないということです。

これは他の貿易条件でも同じで、EXWであれば出荷基準(工場での引渡基準)での売上計上、DDPなどのDグループの貿易条件では、現地での引渡時点などでの売上計上を検討するのが基本になると思われます。

なお、以下の記事では、Dグループの貿易条件での売上計上に関係しそうなKAMについてコメントしています。

 

新たな論点-貨物に対する支配移転後の配送活動

収益認識会計基準の適用による影響については、敢えて言うなら、貨物に対する支配移転後の配送活動という論点が出てきた程度かと思います。

これは細かい話ですが、例えば、貿易条件がCIF(運賃・保険料込み)の場合のように、貨物に対する支配の移転後(つまり、船積後)に、輸出企業の側が配送活動を行う位置付けになる場合の論点です。端的には、その配送サービスの提供を製品売上とは別個の履行義務と考えるべきではないか、ということです。

ただ、収益認識会計基準上は、これを製品売上と一体(製品を移転する約束を履行するための活動)と考え、別個の履行義務として識別しないことができると整理されています。つまり、配送サービスの提供による収益(運賃見合い)を製品売上と分けずに、CIF価格でまとめて売上計上できるということです。

結局何も変わらないのでは

長々とご説明してきましたが、結局のところ、収益認識会計基準の適用によっても、輸出売上の計上に関する考え方に大きな変更はないというのが大枠の話かと思います。

このあたりのお話は、その他の論点(例えば、消費税の輸出免税の話)と併せて、以下の書籍に書きました(と宣伝する)。

 

IFRS採用企業の開示例

IFRS採用企業では、輸出取引の収益認識タイミングについて、注記等で「船積日」に言及している開示例がそれなりにあります。そのあたりをちょっと確認してみましょう。

どの企業とは明示しないですが、だいたい以下のような開示になっています。

…物品の所有にかかるリスク及び経済価値の移転時期は、個々の販売契約の条件によって異なりますが、通常は物品が顧客に引き渡された時点や船積日です。…

…所有権及びリスク負担が連結会社から顧客に移転する時期に応じて、船積日、顧客に引き渡された時点、又は顧客の検収がなされた時点等で収益を認識しております。…

…製品の販売については、引渡時点や船積日で、顧客に製品の法的所有権、物理的占有、製品の所有に伴う重大なリスク及び経済価値が移転し、製品の支配が顧客へ移転したと考えられるため、当社グループの履行義務が充足したと判断し、収益を認識しています。…

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収益認識会計基準の適用により起こる問題

で、ここからが本には書けないことなのですが、じゃあ、輸出取引がある企業について、収益認識会計基準の適用による影響がないかというと、実際には何らかの影響があることが多いと思います。

具体的には、「当社は輸出取引について船積日で収益を認識しています」と宣言できるケースでも、細かく調べていくと、イレギュラーなことが出てくるのではないでしょうか。というのも、すべての輸出先と同じ貿易条件で取引しているケースは多くないように思うからです。

例えば、現状、航空輸送の売上計上基準はどうなっているでしょうか? また、海上輸送についても、FOBやCIF以外の貿易条件(例えば、DDPなどのDグループ)があるのではないでしょうか? それ以外にも、輸出先との間で特殊な条件を定めているケースはないでしょうか?

こういう状況なので、経理部門で細かく調査してみると、実は船積日で売上計上すべきではない取引があった、等々の話は一般的にあると思います。そういう場合は、最低限「船積日で収益を認識しています」と宣言する必要がありますね。ただ、こういう事態は、輸出取引に限った話ではなく、上で挙げたライセンス契約などについても、同じような話があるという印象です。

従来の平和な時代には誰も気にしていなかった細かな話が、新会計基準の導入に伴って、急にクローズアップされるのはよくある話だと思います。そして、新会計基準の導入によって、従来の処理が変更されるわけではないのに、単純に過去の処理が間違っていたことで問題になるという。。。

そもそも過去はほったらかしていて、誰も困らなかったし、監査法人も気づかなかったんだから、基本的に重要性がないということなんでしょう。なのに、新しい会計基準の適用を契機として急に揉め始めるので、傍目には非生産的としか思えません。そういうことがわかりつつ、議論をしなければならない企業の方も、(そういう事情が飲み込めている一部の)監査法人の方も、こういうのは大変だろうなと思います。

最後にインパクトのある注記

最後に、2020年3月期の決算で、以下のような注記が見つかりました(どの企業のものかは伏せますが、日本基準です)。

(会計方針の変更)
…輸出販売の一部に関して、従来は船積基準により収益を認識しておりましたが、財又はサービスを顧客に移転し当該履行義務が充足された一時点で収益を認識する方法に変更しております。…

これは特殊な取引条件があったのでしょうか。そうでなければ「自白」系の注記なのかもしれません。この注記の裏側にあった葛藤が透けて見えるようです(全然気にしてなかったりして)。

今日はここまでです。

では、では。

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この記事を書いたのは…
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら

 

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