第13回 役務提供取引と無形資産取引の区別(移転価格税制)

引き続き「役務提供取引(IGS)」シリーズです。
Table of Contents
1. 無形資産の使用の有無の検討
ここまで、企業グループ内の役務提供(IGS)について、どのように独立企業間価格を算定するかを見てきましたが、「無形資産」という用語が何度か登場しています。
例えば、5%マークアップを選択できる低付加価値IGSについては、無形資産を使用していないことが要件に含まれていました。同じく、役務提供を行う際に無形資産を使用した場合には、総原価法も使えません。
そもそものお話になるのですが、役務の提供と無形資産の使用(許諾)は概念的には別物です。
そのため、事務運営指針では、役務提供が無形資産を使用する形で行われている場合には、役務提供の対価の額に無形資産の使用に係る部分が含まれているか否かを検討する必要があるとされています。
仮に無形資産が使用されていれば、その分の対価のやり取りも必要になるということですね。
その意味で、「役務提供を行う際に無形資産が使用されているかどうか」は重要なポイントです。といっても、これはどこまで行っても抽象的な話になりますが。
2. 過去に確認したケース
実は、過去に、「無形資産の例:従業員が蓄積したノウハウ」というケースで、この点は確認しています(詳細はこちら)。
そのケースでは、日本親会社は、海外子会社に対し経営指導等の役務提供を行っていましたが、単なる役務提供ではなくて、日本親会社は、役務提供にあたって、かなりのノウハウを使っていました(例えば、以下のような状況設定)。
「海外子会社が生産設備完成後に行う操業管理、メンテナンス等につき、日本親会社が支援を行っているが、当該支援には日本親会社がこれまでに実施してきたアフターサービス事業において蓄積されたノウハウが活用されている」
こういうのは程度問題ではありますが、そこでお伝えしたのは、問題となる国外関連取引が役務提供取引であっても、それを通じて、企業に蓄積されたノウハウ等が法人から国外関連者に組織的に供与され、国外関連者の事業活動での重要な要素となり、所得の源泉になっている場合においては、重要な無形資産が認定される可能性が高いということです。
具体的には、以下のような状況に注意が必要です。
繰り返しになりますが、あくまでも程度問題です。
3. 無形資産の使用が認定される意味合い
無形資産の使用が認定される意味合いですが、一般に役務提供取引よりも無形資産取引のほうが対価の額が大きくなります。
また、無形資産が使用されていれば、5%マークアップや総原価法は使えません。
そのため、税務調査などの局面でも、役務提供取引について「無形資産が使用されていないか」という見方をされる場合があります。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。