電子帳簿保存法(電子取引):訂正削除の防止に関する事務処理の規程
今日も電子帳簿保存法における電子取引の制度についてです。
今回は、国税庁の電子帳簿保存法Q&A(一問一答)【電子取引関係】をもとに、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」の記載例を見てみたいと思います。
Table of Contents
0. この記事のポイント
1. 改竄防止措置
電子取引の取引データの保存(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存等)の際の要件のうち、改竄防止措置については、以下の記事にまとめました。
具体的には、以下のいずれかの対応が必要になるのですが、④を採用するケースも多いんじゃないでしょうか(混在もOKです)。
②速やかに(またはその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付与する
③データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステムまたは訂正削除ができないシステムを利用する
④訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定、運用、備付けする
2. 正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程
上記④については、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」を整備して、運用することになります。
じゃあ、どういう規程を整備すればいいかということですが、国税庁のQ&A(一問一答)では、具体的な規程の内容については、「どこまで整備すればデータ改竄等の不正を防止できるか」という視点で、事業規模等を踏まえて個々に検討する必要があるとされています。
たぶん、いくら規程を整備しても不正は防止できないと思いますが、大人なので、そんなことは言わないようにしましょう。
ここでは、国税庁のQ&A(一問一答)において、必要となる事項を定めた規程の例(記載例)が示されているので、それをご紹介したいと思います。
3. 規程の例(記載例)
法人の例と個人事業者の例がありますが、私がお仕事で関係する法人のほうを貼っておきます。
個人事業者の分も含めて、以下のリンクからWord版のダウンロードが可能です。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm
なお、ちょっと考えて書く必要がありそうな部分には、下線を引きました。
(以下、抜粋です)
電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程
第1章 総則
(目的)
第1条 この規程は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する法律第7条に定められた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務を履行するため、○○において行った電子取引の取引情報に係る電磁的記録を適正に保存するために必要な事項を定め、これに基づき保存することを目的とする。
(適用範囲)
第2条 この規程は、○○の全ての役員及び従業員(契約社員、パートタイマー及び派遣社員を含む。以下同じ。)に対して適用する。
(管理責任者)
第3条 この規程の管理責任者は、●●とする。
第2章 電子取引データの取扱い
(電子取引の範囲)
第4条 当社における電子取引の範囲は以下に掲げる取引とする。
一 EDI取引
二 電子メールを利用した請求書等の授受
三 ■■(クラウドサービス)を利用した請求書等の授受
四 ・・・・・・
記載に当たってはその範囲を具体的に記載してください
(取引データの保存)
第5条 取引先から受領した取引関係情報及び取引相手に提供した取引関係情報のうち、第6条に定めるデータについては、保存サーバ内に△△年間保存する。
(対象となるデータ)
第6条 保存する取引関係情報は以下のとおりとする。
一 見積依頼情報
二 見積回答情報
三 確定注文情報
四 注文請け情報
五 納品情報
六 支払情報
七 ▲▲
(運用体制)
第7条 保存する取引関係情報の管理責任者及び処理責任者は以下のとおりとする。
一 管理責任者 ○○部△△課 課長 XXXX
二 処理責任者 ○○部△△課 係長 XXXX
(訂正削除の原則禁止)
第8条 保存する取引関係情報の内容について、訂正及び削除をすることは原則禁止とする。
(訂正削除を行う場合)
第9条 業務処理上やむを得ない理由によって保存する取引関係情報を訂正または削除する場合は、処理責任者は「取引情報訂正・削除申請書」に以下の内容を記載の上、管理責任者へ提出すること。
一 申請日
二 取引伝票番号
三 取引件名
四 取引先名
五 訂正・削除日付
六 訂正・削除内容
七 訂正・削除理由
八 処理担当者名
2 管理責任者は、「取引情報訂正・削除申請書」の提出を受けた場合は、正当な理由があると認める場合のみ承認する。
3 管理責任者は、前項において承認した場合は、処理責任者に対して取引関係情報の訂正及び削除を指示する。
4 処理責任者は、取引関係情報の訂正及び削除を行った場合は、当該取引関係情報に訂正・削除履歴がある旨の情報を付すとともに「取引情報訂正・削除完了報告書」を作成し、当該報告書を管理責任者に提出する。
5 「取引情報訂正・削除申請書」及び「取引情報訂正・削除完了報告書」は、事後に訂正・削除履歴の確認作業が行えるよう整然とした形で、訂正・削除の対象となった取引データの保存期間が満了するまで保存する。
附則
(施行)
第10条 この規程は、令和○年○月○日から施行する。
4. ざっと見た感じ
電子取引の範囲(第4条)や対象となるデータ(第6条)については、自社の実態に合わせて記入する必要があります。
その前提として、「どういう電子取引があるか」は明確にしておかなければならないですね(電子取引の範囲と具体例についてはこちら)。
ちなみに、国税庁の「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」(詳細はこちら)では、対象となるデータ(第6条)について、取引先等とデータでやりとりしたもののうち、取引情報が含まれるデータについては、「全て」要件に従ってデータのまま保存する必要がある旨が念押しされています。
ただ、上記以外は、あんまり変えなくて大丈夫そうです。
また、訂正削除を行う場合の具体的な手続き(第9条)については、規程の内容としては問題ないはずですが、実際にこの事務フローが可能かは考えたほうがよさそうです。
いずれにせよ、これだけで改竄防止措置になるわけなので、電子帳簿保存法への対応に命を懸けている企業以外は、こういう規程をさっぱり作るのがいいと思います。
今日はここまでです。
では、では。
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佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。