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佐和周のブログ

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事業構造改善費用(事業構造改革費用)の中身は何でしょう?

週末なので雑談です。

1. 事業構造改善費用について考える

私は仕事柄、よく企業の財務諸表を見るのですが(というか、それが仕事ですが)、損益計算書を見るときに注目している科目の1つが「事業構造改善費用」(あるいは「事業構造改善費」)です。

よく特別損失に計上されていますね。

今日は、この「事業構造改善費用」について考えてみたいと思います。

2. 事業構造改善費用とは

いつも思うことですが、そもそも「事業構造改善」自体、何を意味するんでしょうか? 私にはよく分かりません。

ただ、「事業構造改善費用」に含まれる費用・損失を見ると、リストラクチャリング関係なのは間違いないところだと思います。

ということは、リストラクチャリング(事業の再構築)をいい方向に解釈したときの訳語なのでしょうか。

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3. 事業構造改善費用のバリエーション

(1) 事業構造改善か事業構造改革か

「事業構造改善費用」的な損益計算書科目(特別損失科目)には、いくつかのバリエーションがあります。

事業構造改善費用」という言い方が一番多そうですが、「改善」ではなく「改革」ということで、「事業構造改革費用」(あるいは「事業構造改革費」)としているケースもあります。

言葉のニュアンスとして、「改善」は現状の延長線上の路線、「改革」は現状を打破する形の新しい路線なのでしょうか。

そういう意味では、「事業構造革命費用」とか、いつか出てきそうです。妙な勢いのある役員さんがいらっしゃる企業とかで。

それ以外の科目名のバリエーションとしては、少し性質が異なるのかもしれませんが、「事業再編損(失)」という科目もあります。

このあたりが一般的なところでしょうか。

(2) ちょっと珍しいバリエーション

ちょっと珍しいところでは、「事業構造再構築費用」というのもありました。リストラクチャリングを直訳しているので、「改善」よりもニュートラルな感じですね。

また、リストラクチャリングの対象が子会社のみであれば、「子会社事業構造改善費用」みたいに、科目名でそれを特定するケースもあるようです。

そして、これをおしゃれにした感じで、「在外連結子会社リストラクチャリング費用」という科目もありました。在外だからカタカナにしたんでしょうか。カッコいいですね。

リストラクチャリング対象になったのは、英会話学校のような語学教育の会社みたいなので、もう一歩踏み込んで、「在外連結子会社Restructuring費用」でもよかったんじゃないでしょうか。さらに踏み込むなら、上記で挙げた「革命」を使って、「在外連結子会社Revolution費用」というのも今後期待したいです。カッコいいですね。

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4. 事業構造改善引当金繰入額のパターン

話を戻すと、事業構造改善費用について、引当金を設定するパターンもあります。

この場合、損益計算書には「事業構造改善引当金繰入額」のような科目で表れると思います(これの「改革」版もあります)。

財務内容に余裕があって、V字回復を見せたい企業では、こういう引当金は過剰に設定しておくので、翌年度に「事業構造改善引当金戻入額」が出たりもしますね。

翌年度に戻入になった場合、損益計算書注記を付けずに、しれっと戻しているケースもありますが、こんな感じで注記したほうが誠実な感じがします(このケースが過剰引当だとは言ってません)。

※2 事業構造改善引当金戻入額
●●●設備の休止に伴う損失見込額の見直しによるものであります。

また、個人的に注目しているのは、事業構造改善費用が何年にもわたって計上されるパターンです。

そんなに継続的に事業構造改善するなら、敢えて「事業構造改善費用」とせずに、中身の費目をその科目で淡々と計上していけばいいのではないかと思ってしまいます。「事業構造改善費用」と出すと、やっぱり特別な感じが出てしまうので。

また、損益などに余裕がない企業にありがちですが、引当が不足していて、何度も「事業構造改善引当金繰入額」が出たりするケースもあります。注記からそういう事実が判明したら、その企業は台所事情が苦しいのかどうか、損益状況と照らし合わせて、チェックしたほうがよさそうですね。

こういう引当金の戻入や追加繰入れのケースは、監査上はどう取り扱っているのでしょうか。引当金の計上要件は厳格に運用されていると信じていますが、あくまでも当初において最善の見積りをしたという建付けだからこそ、翌年度に損益が発生しているわけですよね。そう考えると、監査法人のお仕事も大変だなあと思います。

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5. 事業構造改善費用の中身

「事業構造改善費用」については、話し出すとキリがないですが、やっぱり中身として何が入っているのか、気になりますよね。

長年ウォッチしてきた経験からいうと、大きくは、ヒトに関する費用・損失とモノに関する費用・損失に分かれると思います。

前者は人員整理に係るもので、後者は固定資産や棚卸資産の処理に係るものです。

もちろん、こういう諸費用を「事業撤退」などのテーマで括ったりもしますが。

ということで、今日は、「事業構造改善費用」的なものの中身を(連結)損益計算書注記で確認してみました。

ここ1年くらいのものをざっと見てみましたが、特に集計はしていません。なぜなら、面倒だからです。

そういうのは、大手監査法人のリサーチにお任せしたいと思います。

(1) 人員整理に係る費用・損失が多い

「事業構造改善費用」の中身を見て気づくのは、やっぱりヒト関係、つまり、人員整理に係るものが多いということです。

1つは割増退職金的なものですね。色々な言い方がありますが、「特別退職金」や「退職加算金」みたいな表現が多いと思います。

もう1つは再就職支援費用的なものです。「ネクストキャリア制度の実施に伴う費用」みたいな素敵な表現もありました。

実際、事業構造改善費用の中身がすべて人員整理関係の場合もあります。

以下の(連結)損益計算書注記なんかはそうですね。

※3 事業構造改善費用
国内子会社の特別退職金であります。

※8 事業構造改革引当金繰入額
当社の連結子会社である●●●株式会社における特別退職金見込額を計上しています。

ちなみに、上側の「であります」という言い方、軍人の匂いがしますね。個人的には嫌いじゃないです。

話を戻すと、こういうケースでは、シンプルに「(早期)割増退職金」みたいな科目で、特別損失に出せばいいとも思うのですが、やっぱり心情的に、そういう形では出したくないんでしょうか。

そういう場合でも、以下の損益計算書注記のように、「なぜ特別退職金が事業構造改善費用なのか」という説明を付けてくれると、わかりやすいです。

※8 事業構造改善費用
連結子会社において、事業環境の悪化に対応した生産体制の効率化のため、事業拠点の再編を行うことに伴うものであり、主な内容は、特別退職金358百万円であります。

ちなみに、通常の退職金の支払いは退職給付引当金を取り崩す形で支払われるので、支払時点で費用は計上されません。なので、ここで問題にしているのは、一時的に支払われる早期割増退職金ということです。つまり、退職給付見込額の見積りに含まれていないタイプの退職金ですね。こういうものは、従業員が制度に応募し、かつ、その金額が合理的に見積られる時点で費用処理します。

このあたりは、以下の本に書きました。

 

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(2) 減損損失も多い

「事業構造改善費用」の中身として、モノ関係では、「減損損失」が含まれていることも多いです。

事業構造改善を「ヒトやモノに関する再構築」と考えると、やはりモノのほうで金額的に重要な固定資産関連の損失は含まれやすいんだと思います。

「固定資産除却損」などとセットで計上されることもあるので、まとめたほうが見やすいという趣旨なんでしょうか。

ちなみに、敢えて損益計算書の特別損失のところにまとめなくても、財務諸表の外で集計して出せばいい気もします。というのも、その事業構造改善に伴って、売上原価や販管費も影響を受け(てい)るはずですが、そういうのはさすがに営業損益の上で表示されてますよね。なので、特別損失だけ分けるのはちょっと誤解を招くかもしれません。

(3) 棚卸資産評価損もそれなりに

固定資産と同じモノ(資産)に係る損失という意味では、「事業構造改善費用」に棚卸資産に係る損失が含まれていることもそれなりに多いです。「棚卸資産評価損」や「棚卸資産廃棄損」ですね。

モノに係る損失という点では固定資産に係る損失(「減損損失」や「固定資産除却損」)と同じですが、意味合いは少し異なります。

というのも、評価損のほうを例に取ると、「減損損失」はもともと特別損失なので、単にそれを「事業構造改善費用」という別の特別損失に含めただけです。ちゃんと減損損失に関する注記を書いておけば、あまり問題はないでしょう。

一方、「棚卸資産評価損」(通常の販売目的で保有する棚卸資産に係る収益性の低下による簿価切下額)は、基本的に売上原価です。つまり、本来は営業損益(売上総損益)に反映すべきものだということです。その意味で、損益計算書上の「事業構造改善費用」にこういう項目が含まれている場合、それが「事業構造改善費用に含まれるべきものか」を考える前段階として、「そもそも特別損失なのか」はよく考えたほうがいいと思います。

もちろん、収益性の低下に基づく簿価切下額が、臨時の事象に起因している(かつ、多額である)場合には特別損失で問題ありません。ただ、臨時の事象というためには、例えば、「重要な事業部門の廃止」を伴っている必要があるので、本当にそこまでの事業構造改善があるのかは考えたほうがよさそうです。

つまり、損益計算書を見るときには、「おお、事業構造改善だ」みたいに捉えるよりは、「本当はもっと前の期に売上原価として処理すべきだったんじゃないの?」という視点で見たほうがいいのかもしれません。

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(4) その他の中身

「事業構造改善費用」のその他の中身として、店舗や(子会社を含む)拠点の「閉鎖費用」なども比較的多く入っているようです。

こういうのは、確かに事業構造改善っぽいですが、「閉鎖費用」と一括りになっていると、どういう性質の費用なのか、わかりにくいように思います。例えば、「固定資産除却損」のように、性質別の分類が見えたほうが有難いですね。

あとは、「事務所移転費用」などもそこそこ入っているようです

「事務所移転費用」なんかは、金額的に見て、「そもそも特別損失なのかな」というレベルのものも入っているような気がします。「単独では特別損失にしづらい金額だけど、事業構造改善費用でまとめておけば、金額が大きくなって特別損失っぽい」というノリが感じられたりもするので、財務諸表を見る側は、そういう疑いの目も持ったほうがいいのかもしれません。

それ以外では、普段あまり見た記憶がなかったのですが、「事業譲渡損」や「事業譲渡関連費用」みたいなものもありました。

また、珍しいところでは、「為替換算調整勘定の取崩損」という内訳項目がありました。在外連結子会社の処理をしたときに、一部実現した為替の含み損をこの項目で示してるんでしょうか。こういうのは、きっちり経理処理した感じで好感度が高いです。敢えてこういう表現にした意図を聞いてみたいですね。

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6. 番外編:怒られそうな注記

余談ですが(というか、今日の話は全部余談ですが)、「事業構造改善費用」の中身を見ていた中で、金融庁とかから怒られそうな注記もありました。

例えば、以下のような感じです。

※7 事業構造改善費用
特別損失に計上した事業構造改善費用の内容は、不採算事業の撤退に伴う損失であります。

※8 事業構造改善費用
●●●事業を営む一部の連結子会社における事業構造改善に係る費用であります。

後者について言うなら、まあ、「事業構造改善費用」なので、「事業構造改善に係る費用」なんでしょうね。もちろん、特定の事業に限定してくれているので、情報価値がゼロというわけではないのですが。

この注記の仕方は、以下の記事で書いた、「ほぼ何も言っていない系」注記に通じるものがあります。
【注記事例】 「のれん」の減損損失が計上される理由

7. 最後にびっくりした注記

最後に、ちょっとびっくりした注記で、以下の注記の「△406」というところです。

※7 事業構造改善費用
事業構造改善費用の内訳は以下のとおりであります。
●●●の清算に係る費用 160 百万円
希望退職者の募集に伴う特別退職金等 2,858
大量退職に伴う退職給付制度一部終了益 △406
その他 8
 計 2,620

こういう相殺ってアリなんですね。背景にある事情はわからないので、単に本来ネットのものをグロスアップして表記しているだけかもしれませんが。

今日はここまでです。

では、では。

この記事を書いたのは…
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら

 

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