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のれんの減損損失の計上理由をパターン分け(注記事例)

週末なので、雑談です。といっても、お仕事のお話ですけど。

私のお仕事では、日々企業の方々からご相談(主に海外関係)を頂くのですが、その中でよく検討するテーマが「減損」です。

「減損損失を計上する、しない」の話はドラマがありすぎて外に出せないので、今日は減損損失の計上を決めた後の注記(連結損益計算書注記)のお話をしたいと思います。

 

1. 減損損失の注記は読みごたえアリ

海外子会社の関係でよく調べるのですが、減損損失の注記って、読み応えがありますよね(特に「のれん」の減損がある場合)。

過去に買収を決めたマネジメントや関係部署に気を遣って注記を書くから、細やかな心配りが見て取れますし、その裏に経理部門の方々の大変な思い(≒怨念)が込められているので、スピリチュアルなもの(?)が感じられたりします。

こういう注記こそ吟味する価値があると思うので、今日はそういった注記から読み取れる、「のれん」の減損理由について書きたいと思います。

ちなみに、この記事は真面目には書いておらず、かつ結構長いです。真剣に注記を検討されている方が読まれると気分を害されると思うので、そういう方は読まないようにしてください。

2. 「減損損失の認識に至った経緯」の注記が必要

前提として、重要な減損損失を認識した場合には、損益計算書(特別損失)に係る注記事項として、一定の項目を記載する必要がありますが、その中には「減損損失の認識に至った経緯」が含まれています(日本基準)。

つまり、減損損失が計上された「いきさつ」や「諸々の事情」、もうちょっと言うと、「なぜ減損損失が計上されるに至ったのか」という「理由」を開示する必要があるということです。

「のれん」の減損についていえば、「コーポレート部門は反対していたのに、マネジメントのあの人が強引に買収を推し進めたから、シナジーとか連呼してる事業計画も甘々で、当然ながら思ったほどの投資成果はなく、案の定減損損失が計上されました」みたいなことが「経緯」に該当します。これは書きづらい。

なので、今日は「のれん」の減損がある場合に限定して、一般に「どういうスタンスで減損損失の認識に至った経緯を書いているか」ということを、斜め上からの視点で勝手に分類してみたいと思います。

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3. 減損損失の計上理由の私的分類

先に減損損失の計上理由の書き方の分類を明示しておきます。具体的には、以下のとおりです。

(1) 淡々と述べる系
(2) プライドを見せる系
(3) 不可抗力だから仕方ない系
(4) 説明を追加して誠実な感じを出す系
(5) 政治家系
(6) ほぼ何も言ってない系

読者が心に余裕のある人たちに絞られたところで、始めていきます。

以下では注記事例を示しますが、これは傾向を示すためであって、注記自体を批評したいわけではないので、会社名は伏せます。

(1) 一番多い「淡々と述べる系」

まず、「のれん」の減損損失が計上された場合の理由として、一番多くて、一番普通なのが、「買収時に見込んでいた収益が見込めなくなったから」と、淡々と述べるタイプのものです。

これが、(1)淡々と述べる系ですが、典型的には、以下のような感じでしょうか。

連結子会社である●●●に対する買収に伴い発生したのれん等に関して、買収時に想定していた収益が見込めなくなったことから帳簿価額の全額を減損損失として計上しております。

うん、よく見かけるタイプの注記ですね。

①「事業計画」というワードを出すか

細かなところでは、「事業計画」というワードを出すかどうかという判断があります。買収時に見込んでいた収益というのは、おそらくDCFの基礎になった事業計画上の数字なので、明記しなくてもわかるのですが、明記したほうが少しだけ生々しくなります。

例えば、以下のような感じです。

●●●を取得した際に計上したのれんについて、株式取得時に検討した事業計画において想定した利益が見込めなくなったことにより、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失(●●●百万円)として特別損失に計上している。

内容は上と同じなのですが、ちょっと計画未達のニュアンスが出ますよね。

②低下したのは「収益力」か「超過収益力」か

また、こういうタイプの注記の場合、低下したのが、「収益力」とするか、「超過収益力」とするかも選択の余地があります。

以下のように、「超過収益」を選択することで、「収益が見込めないんじゃなくて、あくまでも超過収益が見込めないだけだよ」というニュアンスを出す感じでしょうか。

のれんについては、当社の連結子会社である●●●の株式取得時に想定していた超過収益力が見込めなくなったことから、のれんの未償却残高を減損損失として計上しています。

まあ、利益の絶対額で見ているのか、(マーケットとの比較での)相対額で見ているのかだけの差で、いずれの額も低下しているのは間違いないので、語感だけの問題なのですが。

③収益力が「悪化」したのか、「悪化の懸念」があるだけなのか

さらに、収益性の低下ではなく、その「懸念」とすることで、暗に「まだ悪化はしてないんだけどね」というニュアンスを出しているものもあります。

当社の連結子会社である●●●ののれん…について、新型コロナウイルス感染症の影響による収益力の悪化懸念から減損損失を認識しました。

以下でも触れますが、この注記に限らず、新型コロナの影響は減損損失計上の理由としては多いです。

上記の注記についていえば、そのタイミングでは、まだ新型コロナの影響は数字に反映されていないので、「収益力の悪化」ではなく、「収益力の悪化懸念」だったということなんでしょうね。

細かなことを言いましたが、これらはすべて一般的な注記です。つまり、位置づけとしては前振りに過ぎません。

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(2) 気を付けたい「プライドを見せる系」

上記の「超過収益」や「懸念」など用語選択からにじみ出る思想(傾向)をさらに強めたのが、(2)プライドを見せる系です。

例を見てみましょう。

連結子会社の海外事業において、業績は伸長しているものの、立ち上がりが当初の想定よりも遅れ、それに伴う事業計画の遅れがあったため、子会社買収時に発生したのれんについてその帳簿価額全額を減損損失として計上しております。

業績は伸長しているので、これは単なる「遅れ」であり、決して「最終的な未達」を意味しないというニュアンスがポイントです。

この点をもうちょっとクリアにしたのが、以下の例です。

連結子会社●●●および●●●に係るのれんについて当初想定していた収益の達成に遅れが生じており、計画値の達成には時間を要すると判断したことから、のれんの未償却残高を減損損失として特別損失に計上しております。

「時間を要するけど、達成するよ」という強いメッセージが読み取れますね。

①「プライドを見せる系」注記は慎重に

関係部署の意向で、こういうタイプの注記をする場合に注意したいのが、強気で書くなら、翌年度のことも考えておくべきということです。

具体的には、次の年度で再度、同じ事業で減損損失を計上する場合、有報では注記が2年分並ぶので、「2年目のトーンをどうするか問題」が発生します。私見ですが(全部私見だけど)、1年目を強気でいったら、2年目も強気で攻めたほうがいいです。落差を見せると、1年目の強気な記載が「ネタ化」するリスクがあるためです。

同じく、こういうスタンスで注記する場合、計算される使用価値(回収可能価額)との関係にも注意が必要です。

業績は順調で、ちょっとした計画達成の「遅れ」に過ぎないのに、使用価値がゼロになってたりすると、「え? 当初の事業計画から飛び出すくらい豪快に遅れるんですか?」みたいなツッコミを覚悟したほうがいいかもしれません。

②「保守的に」という言いまわし

もう1つ、(2)プライドを見せる系に分類されるのが、「保守的に」という言い回しを使っているタイプの注記です。

例えば、以下の例です。

当社の連結子会社である●●●の株式取得時に超過収益力を前提にのれんを計上しておりましたが、業績が当初予定していた事業計画を下回って推移していることから、事業計画を保守的に見直しした結果、のれんの未償却残高の全額を一括費用処理することといたしました。

これは、「メインシナリオではなく、悲観的シナリオに基づいている」というニュアンスを出しています。言い換えると、「楽観的シナリオなら、すごいんだぞ」と。

さらにいうと、「見直したくなかったけど見直した」という悔しさもにじみ出るので、監査法人に対して恨み言をいいたいときにも使える表現です。

なお、「固定資産の減損自体が保守的な会計処理だから、保守的で当たり前」とか絶対言っちゃダメですよ。

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(3) ツッコミを入れづらい「不可抗力だから仕方ない系」

ここまでの「淡々と述べる系」や「プライドを見せる系」とは全く別のタイプとして、(3)不可抗力だから仕方ない系という分類もあります。

端的には、「のれん」の減損が生じたのは、「外的要因のせいです」というニュアンスをちらつかせる注記です。いや、実際にそうなんでしょうけど。

例えば、以下のような感じです。

●●●については、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ事業計画を見直した結果、のれんの償却期間内において投資時に見込んでいた超過収益力を獲得する水準まで回復することは困難と判断したため減損損失として計上しております。

不可抗力の見せ方

こういうときの見せ方ですが、個人的には、「外的要因のせいで決定的になったけど、もともとそんなに状況は良かったわけではないからね。仕方ないかな」みたいなテイストを出したほうが、言い訳感が薄まっていいと思います。

ピッタリ当てはまるものはないですが、以下なんかいい感じだと思います。

連結子会社である●●●に係るのれん及び無形固定資産について、株式取得時に検討した事業計画において各施策の進捗の遅れに加え、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う●●●市場への影響を考慮し、元の水準に戻るまで1~2年を要すると仮定した結果、当初想定していた収益が見込めなくなったため、減損損失を認識しております。

「もともと事業計画には進捗の遅れがあってね」とは認めつつ、でも「この状況で新型コロナは厳しいよね、みんな」というニュアンスかと思います。

あとは、複数の減損がある場合に、そのうち「新型コロナウイルス感染症拡大の影響により」という記述を付けているものと付けていないものがあれば、付けているものの信憑性は増しますね。

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(4) オススメの「説明を追加して誠実な感じを出す系」

だいぶ長くなってきましたが、次のタイプとして、(4)説明を追加して誠実な感じを出す系があります。

個人的にはこれがオススメです。

1つ上の注記もそうだったのですが、差し支えない範囲で減損理由(=買収時に見込んでいた収益が見込めなくなったから)にちょっとだけ情報を付加すると、すごく誠実な感じが出ます。

例えば、以下が好例です。

韓国の連結子会社である●●●の買収に伴い発生したのれん等に関して、韓国経済の急激な減速や主要な納入先である●●●向け売上の減少等の影響により、買収時に想定していた収益が見込めなくなったことから、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その減少額を減損損失として計上しております。

外的要因や内的要因がバランスよく簡潔に説明されていて、減損に至った経緯がわかりやすいですね。

すごくいい注記で、センスを感じます。

説明し過ぎは良くないかも

一方で、付加された説明が長すぎたり、上記の「プライドを見せる系」の要素をぶっこんだりすると、ちょっとテイストが変わってきます。

以下なんかどうでしょうか。

2014年11月に取得しました●●●の業績は、買収後の原油価格下落により業績が低迷しておりましたが、ASEAN諸国における石油・発電プラントの建設計画の再開が進み、●●●において、数件の大型案件を獲得するなど、受注活動は好調に推移いたしました。しかしながら、売上高及び利益面において、計画未達成の状況にあることから、●●●ののれん等の固定資産について、将来の回収可能性を慎重に検討した結果、その一部について回収可能価額まで減額し、減損損失を認識しております。

長い。

でも、説明としては足りているので、読み手としては有難いです。

ただ、「減損したくなかったのに、監査法人に言われたんだろうなあ」みたいなことが気になって、あんまり内容が頭に入ってこない。。。

私だったら、前置き部分を聞いただけで、「じゃあ、もう減損しなくていいんじゃないですか」って言ってしまいそう。

個人的には、あまり内情をさらさないレベル感で、かつ感情を入れずに簡潔に理由を説明するのが、一番いいのではないかと思います。

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(5) ぼやかす「政治家系」

上記の「説明を追加して誠実な感じを出す系」の対極が、説明しているようで説明していない、(5)政治家系です。

解釈の幅が広いというか、普通に解釈が難しい、そんな注記ですね。

言葉では説明が難しいので、例として以下をご覧ください。

連結子会社●●●の取得時に計上したのれんについては、当社グループの事業体制の見直しを行っていく中で、市場動向を鑑み回収可能性を検討した結果、のれん未償却残高の全額を減損損失として計上しております。

一応減損に至った理由は書いてあり、分量としては足りています。ただ、よく読むと、連結子会社個社の収益性には触れておらず、「グループの事業体制の見直し」の中で「市場動向を鑑み」たら、減損になった、と読めます。

説明の分量は足りているのに内容がよくわからない。こういうのが、「政治家系」のイメージです。もうちょっと分類すると、「環境大臣系」とでも言えるでしょうか。

ただ、このタイプの注記はうまくやると、内情を出さずに、何となく説明したテイストだけを出すこともできます。

例えば、以下なんかどうでしょう。

連結子会社である●●●について、現況における欧州ならびに世界の●●●市場環境の将来予測を見直した結果、当初想定していた期間でのキャッシュ・フロー見積額の総額が減少する見込みとなったことから、回収可能価額まで減額しております。

見直したと言っているのは「市場環境の将来予測」だけです。連結子会社個社の事業計画を見直したとは直接的には言ってません。また、収益力や超過収益力が低下したとは言わず、「キャッシュ・フロー見積額の総額が減少」したと。使用価値の計算過程をただ説明しているだけですね。よく練られていると思います。

こういうタイプの注記は、ちゃんと説明している感があるものの、読み手は読んでも理解できないので、いい作戦かもしれないですね。

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(6) 最強の「ほぼ何も言っていない系」

これが実質最後ですが、「政治家系」すら良心的に思えてしまうタイプの注記です。

(6)ほぼ何も言っていない系とでも呼ばせてください。

例えば、以下の注記です。

 (2) 減損損失の認識に至った経緯
●●●の資産グループから得られる見積将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回ったため、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として特別損失に計上しております。

これは、「減損損失とは何か」を説明してる感じですね。

言い換えると、「そうじゃなければ、減損損失は計上されないでしょう」ということです。

「(2) 減損損失の認識に至った経緯」というタイトルに思わず騙されそうです。

これは上記「政治家系」、もうちょっというと、理由は示さないのに断言できるという意味で、「(現)総理大臣系」に分類する人もいるかもしれないですね。

これがおそらく最強の注記

最後に、(6)ほぼ何も言っていない系で最強の注記です。

のれんについて将来の回収可能性を検討した結果、回収可能価額が帳簿価額を下回ることから減損損失として特別損失に計上しました。

でしょうね。

回収可能性を検討せずに減損損失を計上するのは至難の業ですからね。

4. 番外編

番外編として、「淡々と述べる系」なのに、妙に心がざわつくという意味で、私がすごく気に入った注記です。

のれんについては、超過収益力が失われたことから帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を事業構造改善費用として特別損失に計上しております。

「超過収益力が失われた」って、すごく切ない響きじゃないですか? え? 失われてしまったの? もう戻ってこないってこと?

「超過収益力が見込めなくなった」よりちょっと強い表現なだけなのに、何なんでしょう、この切なさ。

全くの部外者である私でも、思わず「超過収益力、戻ってきて!」と叫んでしまいそうです。

今日の妄想はここまでです。

最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。そして、申し訳ありませんでした。

この記事を書いたのは…
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら

 

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