売手負担の振込手数料(支払手数料)は売上値引扱いでインボイス不要に
2023年1月20日(たぶん)に財務省のウェブサイトに「インボイス制度の負担軽減措置(案)のよくある質問とその回答」(以下FAQ)という資料が公表されました。
主な内容はこちらに書いたのですが、このブログでもその内容について少しずつ書いています。
今回も引き続き売手負担の振込手数料の問題について。
Table of Contents
0. この記事のポイント
1. 少額な返還インボイスの交付義務免除
令和5年度の税制改正大綱には、大きく分けて4つの負担軽減措置がありますが、その中に「少額な返還インボイスの交付義務免除」という項目があります(以下の記事をご参照ください)。
2. 売手負担の振込手数料の問題
この措置のターゲットの1つに、売手負担の振込手数料の問題があります(詳細はこちら)。
売手負担の振込手数料というのは、シンプルには、売掛金の入金時に「振込手数料差引後の金額」が入金されてくるような感じです。会計上は「支払手数料」として処理していることも多いんじゃないでしょうか。
このような売手負担の振込手数料については、契約でその負担関係が明らかになっていないケースがあり(それ自体が微妙ですけど)、この場合、売手が「値引き」と整理するか、「買手による振込手数料の立替」と整理するかにより、インボイス制度における対応が異なります。
具体的には、売手に適格返還請求書の交付義務が生じる(→上記措置により免除対象となる)のは、売手が「値引き」と整理する場合です。
3. 少額な返還インボイスの交付義務免除
上記の措置(少額な返還インボイスの交付義務免除)との対応でいうと、以下のとおりです。
(1) 売上値引きとして処理している場合
➡ 返還インボイスの交付義務免除の対象
(2) 支払手数料として処理している場合
➡ 返還インボイスの交付義務免除の対象外(そもそも返還インボイスの交付が不要)
後者の場合、返還インボイスの交付は不要ですが、支払手数料として仕入税額控除を行うためには、基本的に金融機関や取引先からの支払手数料に係るインボイスが必要となります(詳細はこちら)。一言でいうと、めんどくさいということです。
4. 会計上の取扱いと消費税法上の取扱い
上記のとおり、消費税法上、支払手数料として処理する場合、インボイス制度対応は面倒になります。
そこで問題になるのは、売手負担の振込手数料について、会計上は支払手数料として処理する一方、消費税法上だけ売上値引き(対価の返還等)として取り扱うことができるかどうかです。
これも事前の情報どおりで、FAQでは、そのように取り扱って差し支えないこととされています。
つまり、以下のような取扱いが可能だということで、これはすごくいい感じだと思います。
会計上:支払手数料
消費税法上:売上値引き(返還インボイスの交付義務免除の対象)
言い方を変えると、上記のように整理しておけば、会計上の支払手数料についてインボイスの保存が不要になるということで(返還インボイスの交付義務免除の対象になる前提)。
5. FAQが挙げる注意点
ただし、FAQでは、消費税法上(だけ)、売上値引きとして処理する場合の注意点として、以下が挙げられています。
- 消費税法上、売上値引きとして処理する場合には、対価の返還等の元となった適用税率(判然としない場合には合理的に区分)による必要がある
- 帳簿に対価の返還等に係る事項を記載し、保存する必要がある
後者については、「帳簿上、支払手数料として処理していたとしても、対価の返還等として取り扱うこと」が要件設定やコード表、消費税申告の際に作成する帳票等により明らかであれば問題ないこととされています。
今日はここまでです。
では、では。
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佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。