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佐和周のブログ

移転価格税制

第9回 低付加価値IGSに係る簡易な算定方法(5%マークアップ)の適用要件

引き続き「役務提供取引(IGS)」シリーズです。

 

1. 低付加価値IGSに係る簡易な算定方法(5%マークアップ)

前回は英語のお話を挟みましたが、その前にお伝えしたとおり、2018年の事務運営指針の改正により、低付加価値のIGSについては、一定の要件の下、簡易な対価の算定方法として5%マークアップが認められることになりました。

つまり、この算定方法を選んだ場合、「総原価+5%のマークアップ」を海外子会社から回収することになります。

2. 簡易な算定方法を使うための要件

と、ここまでは簡単なのですが、この簡易な算定方法を使うための要件は、結構複雑です。

順番にご説明すると、まずは以下の要件を満たす必要があります(これですべてではなく、まだ続きがあるので、注意してください)。

(1) 役務提供が支援的な性質のものであり、法人及び国外関連者が属する企業グループの中核的事業活動に直接関連しないこと
…表現が難しいのですが、「支援的な性質」というのは、役務提供自体が利益獲得を目的とせず、企業グループの経済的に重要な活動へ貢献するものではないという意味合いです。また、あまり深入りしませんが、役務提供がそれを行う法人の主要事業であっても、その企業グループの中核事業でなければ、たぶんOKです(シェアード・サービス・センターとかのお話です)。
(2) 役務提供において、法人または国外関連者が保有し、または他の者から使用許諾を受けた無形資産を使用していないこと
(3) 役務提供において、それを行う当該法人または国外関連者が、重要なリスクの引受け若しくは管理または創出を行っていないこと
…ここでいう「重要なリスク」は、法人または国外関連者の業績に影響を与え得るリスクという意味合いです。
(4) 役務提供の内容が以下の業務のいずれにも該当しないこと
(イ) 研究開発
(ロ) 製造、販売、原材料の購入、物流またはマーケティング
(ハ) 金融、保険または再保険
(ニ) 天然資源の採掘、探査または加工
(5) その役務提供と同種の内容の役務提供が非関連者との間で行われていないこと
…同種の役務提供が非関連者との間で行われている場合は、利益獲得を目的とした活動となるという整理です。
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3. 低付加価値IGSの例

上記の要件は抽象的ですが、参考事例集に、上記の要件を満たしそうな役務提供の例示があります。

  • 会計、予算及び監査に関する事務(会計帳簿または予算の作成、財務に関する監査など)
  • 債権及び債務の管理に関する事務(顧客に対する債権及び債務並びに信用リスクの管理など)
  • 従業員の管理に関する事務(雇用、教育、給与、福利厚生など)
  • 事業を規制する基準に関する情報の管理または収集に関する事務(衛生、安全、環境など)
  • 情報通信サービスに関する事務(情報通信システムの保守、管理など)
  • 広報活動の支援に関する事務
  • 法務に関する事務(契約書の作成、契約内容の確認など)
  • 税務に関する事務(申告書の作成、納税など)
  • 主に会計・税務・法務に関する事務などの、いわゆるバックオフィス業務が該当するってことですね。

    えー、私の仕事も完全にこの範囲でカバーされており、「低付加価値」であることが明記されております。

    上記の例示はありますが、あくまでも(1)から(5)の要件に合致するものなので、例えば、上記の事務を中核的事業活動とする企業グループに属する法人が、国外関連者に対して当該事務に係る役務提供を行う場合、その役務提供について5%マークアップの取扱いは認められません(上記(1)に該当しない)。

    4. 低付加価値IGSのすべてに5%マークアップが必要

    そして、もう1つの要件として、以下があります。

    (6) その役務提供を含む法人及び国外関連者が属する企業グループ内で行われた「全ての」役務提供(上記の要件を満たすものに限る)を…
    ・その内容に応じて区分し、
    ・その区分ごとに、役務提供に係る総原価の額を従事者の従事割合、資産の使用割合その他の合理的な方法により当該役務提供を受けた者に配分した金額に、
    ・その金額に100分の5を乗じた額を加算した金額をもって当該役務提供の対価の額としていること

    事務運営指針のこの部分、最初に読んだときは「は?」ってなりました。

    要は、低付加価値IGSについては、すべて5%マークアップする必要があるという意味です。それも要件の1つに位置付けられているってことですね。

    この要件も含めて、全ての要件を満たせば、上記の「役務提供に係る総原価の額(の配分額)に、当該金額に100分の5を乗じた額を加算した金額」が独立企業間価格として取り扱われます。

    「総原価+5%のマークアップ」ってことなんですけどね。

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    5. 文書化要件

    それと、もう1つ、最後の要件があります。これは文書化要件で、具体的には以下のとおりです。

    (7) 役務提供に当たり、法人が次に掲げる書類を作成し、または法人と同一の企業グループに属する者から取得し、保存していること

    (イ) 役務提供を行った者及び受けた者の名称及び所在地を記載した書類
    …役務提供を受けた全ての法人の記載が必要です。
    (ロ) 役務提供が上記(1)から(6)までに掲げる要件の全てを満たしていることを確認できる書類
    (ハ) 上記(6)に定めるそれぞれの役務提供の内容を説明した書類
    …具体的には、「役務提供の内容(性質)、取引条件(単価、通貨等)並びに役務提供の開始時期及び期間等を記載した書類」を意味します。
    (ニ) 当該法人が実際に当該役務提供を行ったことまたは当該役務提供を受けたことを確認できる書類
    …具体的には、請求書・計算明細書・業務日誌・作業日報・出張報告書などです。こういった書類の整備は重要ですね。
    (ホ) 上記(6)に定める総原価の額の配分に当たって用いた方法の内容及び当該方法を用いることが合理的であると判断した理由を説明した書類
    …役務提供者の業務日誌や作業日報等によって、役務提供に要した費用を配分するための基準が合理的なものであることを検証できる必要があります。
    (ヘ) 当該役務提供に係る契約書または契約の内容を記載した書類
    …何を書けばいいかということですが、「非関連者間で取引が行われる場合に通常記載され、または取り決められる取引条件等」が明示されている必要があるとされています。
    (ト) 当該役務提供において当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額または当該国外関連者に支払う対価の額の明細及び計算過程を記載した書類
    …具体的には、「取引価格、計算方法(取引相場の有無を含む)、取引通貨、年間取引金額及び対価の額の算定方法等を記載した書類」を意味します。
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    6. ごちゃごちゃしてきたので整理

    これだけ長いとわからなくなりそうですが、いまは企業グループ内の役務提供(IGS)について、どのように独立企業間価格を算定するか、を確認しています。

    で、今回お話ししたのは「簡易な算定方法」のことで、低付加価値IGSについては、5%マークアップを選択できるというお話です。ただし、全ての低付加価値IGSについて5%マークアップしないといけないですけど。

    で、そのための要件をつらつら書いてきました。

    今日はここまでです。

    では、では。

    ■移転価格税制に関するトピックの一覧はこちら

     

    この記事を書いたのは…
    佐和 周(公認会計士・税理士)
    現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら

     

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