インボイス制度:免税事業者との取引と独占禁止法で問題となる行為
今日は、消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)についてです。
ここ最近、企業の方とお話することが多いテーマで、インボイス制度導入後の免税事業者との取引について書きたいと思います。
最初にスタンスを明確にしておきますが、私はインボイス制度の導入に関して、実務的に「めんどくさい」という以外、何の意見もありません。
Table of Contents
1. インボイス制度が免税事業者に与える影響
インボイス制度が免税事業者に与える影響については、以前に以下の記事にまとめました。
シンプルに言うと、免税事業者は適格請求書発行事業者の登録を受けることができません。なので、取引の相手方は仕入税額控除を取れず、コスト増になります(一応経過措置はあります)。
2. インボイス制度導入後の取引コスト
免税事業者から仕入れを行っている企業の立場で、現行制度とインボイス制度を比較すると以下のとおりです。
・免税事業者からの100の仕入れについて、免税事業者が(消費税らしきもの10を上乗せして)110の請求書を発行し、企業は110の支払いを行う
現行制度
・免税事業者からの仕入れも、仕入税額控除の対象になる
➡ 企業は10の仕入税額控除を取れるため、企業のコスト負担は100になる
インボイス制度導入後
・免税事業者からの仕入れは、仕入税額控除の対象にならない(適格請求書発行事業者ではないので)
➡ 企業は10の仕入税額控除を取れないので、企業のコスト負担は110になる
企業にとってのコスト負担の増加(100→110)が、「インボイス制度が免税事業者に大きな影響を与える」という指摘の所以といえます。
ちなみに、現行制度上、免税事業者が請求書等に「消費税額」を記載することについて、消費税法上、特段の制限はないみたいです(詳細はこちら)。
3. 免税事業者と取引を行う企業の視点
上記の例で、仮に従来から本体価格を(110ではなく)100で合意していたとします(これは結構大きな仮定ですが)。
そうすると、免税事業者から仕入れを行っている企業の立場では、インボイス制度導入後は、請求額を100に引き下げてもらうのが自然だとは思います。少なくとも、税務の観点では。
一方で、消費税絡みで価格を⾒直すと、公正取引委員会などからごちゃごちゃ言われるリスクがあります。そもそもこの話が価格の見直し(交渉)なのかどうか、私にはよくわかりませんが。
そういう意味では、「インボイス制度の導入後、免税事業者との取引をどうすべきか?」というのは、税務というよりは、法務の話ということになると思います。
4. 免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A
この点について参照すべき文書として、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」があります。
これは、財務省/公正取引委員会/経済産業省/中小企業庁/国土交通省が2022年1月に公表したもので、インボイス制度を契機に行う免税事業者との取引条件の見直し等に係る独占禁止法や下請法等における考え方を示したものです(2022年3月に一部改正)。
ここでは、エッセンスだけご紹介します。
5. 免税事業者から仕入れを行っている企業の留意点
まず、押さえておいたほうがいいQとして、以下のQ5があります。
Q5 現在、自分は課税事業者ですが、免税事業者からの仕入れについて、インボイス制度の実施に当たり、どのようなことに留意すればいいですか。
簡易課税制度を適用していない企業の立場で書きますが、このQに対するAで触れられている内容は以下のとおりです。
結論としては、「仕入先とよくご相談ください」というところです。
ちなみに、Q&Aには以下のような記述もありますが、余計なお世話以外の何物でもないように思います。
免税事業者である仕入先との取引条件を見直すことが適当でない場合に、仕入税額控除を行うことができる額が減少する分について、原材料費や諸経費等の他のコストとあわせ、販売価格等に転嫁することが可能か、自らの売上先等と相談することも考えられます。
これ、どの程度本気で書いてるんですかね。
6. 独占禁止法などで問題になりうる行為
もう1つ、押さえておいたほうがいいQとして、以下のQ7があります。
Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。
このQに対するAで触れられている内容は以下のとおりです。
取引条件の見直し自体が問題にならないのは当然のことですが、企業としては「優越的地位の濫用」に該当しないように配慮が必要で、ここが気を遣うところではないでしょうか。
実務では、特に仕入先に文書で通知する場合なんかは、顧問弁護士さんに確認したほうがいいと思います。
なお、Q&Aでも、「問題となるおそれがある行為」について、以下の類型ごとに考え方が示されています。
2 商品・役務の成果物の受領拒否、返品
3 協賛金等の負担の要請等
4 購入・利用強制
5 取引の停止
6 登録事業者となるような慫慂等
このうち2~4は、私のお仕事では遭遇しないと思うので、それ以外の項目(取引対価の引下げ・登録事業者となるような慫慂等・取引の停止)について、明日以降書いていきたいと思います。
今日はいったんここまでです。
では、では。
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佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。