オススメの書籍紹介:『こんなときどうする? 「会計上の見積り」の実務』
このブログでは、不定期でオススメの本をご紹介しています。
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今回は『こんなときどうする? 「会計上の見積り」の実務』です
今回は、『こんなときどうする? 「会計上の見積り」の実務』という本です。第2版です。
普段は買わないあずさ監査法人の本
これは、あずさ監査法人(有限責任 あずさ監査法人)の本なのですが、わたしはまず、あずさ監査法人の本は買いません。
というのも、「自分たちの凄さを際立たせるために、わざと難しく書いてるのかな」とも思うくらい、書いてある内容がわかりづらいからです。そして、実際にはそういう意図がないことも、何となくわかっています。ただ、本を書くときの内部のプロセスがちょっとアレなだけだと。
いずれにせよ、購買意欲はわかないということで。
なので、「あずさの本で読みたいものがある→新日本の本で同じテーマのものを探す」というのが私の基本的な行動パターンです。
なぜこの本を買ったのか
では、そういう状況でなぜこの本を買ったのか、ということです。
当然自分では買うつもりはなかったのですが、これは企業の方から勧めて頂いた結果です。
というのも、以前に繰延税金資産の回収可能性に関する以下の記事を書いたのですが、その企業の方が「この本に佐和さんが書いてるのと違うことが書いてありますよ(ニヤリ)」と親切に教えてくださったからです。
繰延税金資産の回収可能性の判断②:「重要な税務上の欠損金」とは
具体的には、分類4の「重要な税務上の欠損金」の解釈の問題です。
もう少し言うと、その繰延税金資産の回収可能性とは別の重要性の判断として、繰延税金資産の発生原因別の主な内訳の注記の論点があり、両者の関係性についてのお話です。
注記については、税務上の「繰越」欠損金の額が「重要であるとき」には、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額を区分して記載する必要があるとされており、その「重要であるとき」の1つの判断基準として、「税務上の繰越欠損金の控除見込額が将来の税負担率に重要な影響を及ぼす場合」があります。
この判断基準については、繰延税金資産の回収可能性を判断する局面と同じような感じだと思います。
問題は、注記のほうのもう1つの判断基準で、具体的には「純資産の額に対する税務上の繰越欠損金の額(×法定実効税率)の割合が重要な場合」というものです。
私は、この判断基準は、繰延税金資産の回収可能性を判断するときの「重要な税務上の欠損金」とは別の判断かなと思っていました。というのも、これはストック数値(しかも純資産)との比較なので、フロー数値の課税所得との比較とは明らかに異なるためです。
一方、この点について、この本には、以下の記述があります。
会社分類を判断する際の「重要な税務上の欠損金」はフローの概念であり、改正税効果会計基準において、注記情報の開示が求められる「税務上の繰越欠損金」はストックの概念であるため、両者は直接的には関係しないが、フローで重要と判断されれば、当然ストックでも重要と判断されることが想定されるため、改正税効果会計基準における重要性の考え方が参考になると考えられる。
つまり、繰延税金資産の回収可能性を判断する文脈での「重要な税務上の欠損金」の判断に際して、純資産の額に対する税務上の繰越欠損金の額(×法定実効税率)の割合も参考にするということです。この点が、私が書いた内容と違う、ということになります。
「フローで重要と判断されれば、当然ストックでも重要と判断されることが想定される」というのは、まあそのとおりかもしれません。そんなことを言うと、そもそもフローとストックの区別をする意味がなくなりますが(笑) 最後の「参考になると考えられる」というトーンからして、そんなに強く主張しているわけでもなく、バランスの取れた内容だと思います。
じゃあ、「結論はどうか」と言われると、私にはわかりません。ただ、監査の現場でそのような判断がされるのであれば、そういう考え方も必要だろうとは思います。
この本のいいところ
上記の議論もそうなのですが、この本のいいところは、「会計基準や適用指針に書いてないこと」が書かれている点です。
これが、あずさ監査法人の本としては珍しいなと思いました(他の本を読んでない私に言う権利はないですが)。
会計上の見積りというのは、おそらく監査では一番揉めるテーマなので、多くの場合、「会計基準や適用指針に書いてあること」は前提として議論します。
なので、「会計基準や適用指針に書いてあること」をわざわざ本にしてもらう意味はないのですが、この本には「会計基準や適用指針に書いてないこと」が比較的多く書いてあり、その意味で監査対応の参考になる部分が多いです。
また、論点ごとに「監査人はここを見る‼」というセクションがあり、これがなかなか便利で、チェックリストのように使うこともできます。
上記の「重要な税務上の欠損金」の論点についていえば、「監査人はここを見る‼」は以下のような感じです。
☑ 一時差異等加減算前課税所得または税務上の欠損金の過去の発生実績や将来の発生予想はどの程度か?
☑ 当期に発生した税務上の欠損金(すなわち期末に税務上の繰越欠損金となった額)はいつ解消することが予想されているか?
☑ 税務上の繰越欠損金の控除見込額が将来の税負担率に及ぼす影響の度合いを考慮しているか?
☑ 税務上の繰越欠損金の額の純資産の額に対する割合を考慮しているか?
☑ 会社分類の判断における重要性と注記事項における重要性は整合しているか?
コンパクトにまとまっていて、いいですよね。
これは編集者の方がGJだと思います。
税効果以外のテーマ
この本で「会計上の見積りが含まれる項目」として、解説されているのは以下の項目です。
この時期に絶対聞きたくない用語が多数含まれている点、お詫び致します。
こんな人にオススメ
この本は、もうそのままですが、会計上の見積りに関して、監査法人との議論が必要な方々にオススメです。
また、私のように裏方で作業をする会計士の方々にも使える本だと思います。
1点注意して頂きたいのは、実際に監査に来ている人たちは、「監査人はここを見る‼」に書いてあるような内容を見ていない(「監査人はここを見ていない‼」)ことがあるという点です。いや、最後の最後になって、監査チームの誰かが気付いて、急に見ることも多いのかもしれません。
監査に来る人たちが、「監査人はここを見る‼」くらいの予備知識は備えたうえで、議論に臨んでくれることを心から願うばかりです(ちょっと酷かも)。
いま監査対応で疲弊しているので、これ以上監査のことを書くのはやめよう、うん。
そういえば…
今日はあずさ監査法人の本がご紹介できたので、いい1日になりそうな気がします。
そういえば、もう1冊、KPMGの本でご紹介したい本があるので(実は結構あずさが好きなんじゃないか)、また今後、それについても書きたいと思います。
【2021年11月追記】
もう1冊の本は、以下の記事でご紹介しています。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。