第5回 DCF法における「割引率」の決め方(移転価格税制)
引き続き「無形資産の譲渡取引とDCF法」シリーズです。
前回は、DCF法における重要な計算要素である「予測利益」の見積りについて確認しました。
今回は、もう1つの重要な計算要素である「割引率」です。
Table of Contents
1. DCF法における割引率
割引率については、移転価格税制だからといって特別な話はありません。
端的には、貨幣の時間価値に加え、事業のリスクが合理的に反映されている必要があります。つまり、「予測利益の金額がどの程度変動するか」という視点です。
もうちょっというと、割引率については、以下のような個々の状況に応じて、合理的と認められる割引率を使う必要があるとされています。
繰り返しになりますが、要は普通の(税務以外の局面での)DCF法と同じ話です。
無形資産の譲渡取引を前提とすると、譲受人が製造業を行っているときには、その無形資産を使用して製造した製品が属する事業のリスクに応じた期待収益率や加重平均資本コストなど、合理的と認められる割引率の使用を検討します。
2. 加重平均資本コスト(WACC)を使うケース
ちょっとフライングになりますが、次回見るケース(特許権等の譲渡取引)では、その特許権等の譲渡取引前後において、譲受側である海外子会社の加重平均資本コストを(合理的と認められる)割引率として用いています。
これは特に移転価格税制のお話ではないですが、加重平均資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)とは、企業の株主資本コストと有利子負債コストを加重平均することによって求められる資本コストです。
企業にとっては資金調達コストであり、それと同時に、企業に投資する投資家にとっては企業に対する期待収益率ですね。
3. 割引率としてWACCを使うことの意味合い
上記のように海外子会社の加重平均資本コストをそのまま割引率として使うということは、「無形資産に係る予測利益の金額の変動リスクが、海外子会社全体に期待される収益率の変動リスクと等しい」と考えるということです。
次回のケースでは、「海外子会社は、無形資産が関係する製品に係る事業しか行っていない」という前提になっているので、海外子会社(全体)の加重平均資本コストを使っても、合理的に独立企業間価格を算定できるという建付けです。
逆にいうと、無形資産の譲受側が複数の事業を営んでおり、それぞれの事業でリスクが大きく異なるような状況であれば、譲受側の加重平均資本コストは使えないかもしれません。
いずれにしても、割引率の決定にあたって重要なのは、無形資産に係る予測利益の金額の変動リスクだと思います。
その他、参考事例集では、株主資本コストについても解説されていますが、一般的な内容なので、このブログでは触れません。
4. 次回予告
これで、DCF法の計算要素である予測利益と割引率を確認したことになるので、次回からは、参考事例集のケースを使って、具体的なDCF法の計算手順を確認したいと思います。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。