インボイス制度:登録国外事業者制度(電気通信利用役務の提供)との関係
前回に引き続き、消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)についてです。
今回も、少し本職に関係する内容ということで、インボイス制度の導入が登録国外事業者制度に与える影響のことを書きたいと思います。
Table of Contents
0. この記事のポイント
1. 電気通信利用役務の提供とは
電気通信利用役務の提供の典型は、インターネット等を介して行われる電子書籍・電子新聞・ソフトウェアの配信ですが、クラウド上のソフトウェアやデータベースを利用させるサービス、または、クラウド上で顧客の電子データの保存を行う場所の提供を行うサービスなんかも電気通信利用役務の提供に含まれます。
この電気通信利用役務の提供については、役務の提供を行う側ではなく、受ける側の住所地等で内外判定を行うこととされています。したがって、日本企業が国外事業者から受ける電気通信利用役務の提供は、国内取引に該当します。
2. 消費者向け電気通信利用役務の提供とは
国外事業者が行う電気通信利用役務の提供は、役務の性質または取引条件等から、以下の2つに区分されます。
このあたりまでは前回お伝えした内容とほぼ同じです。
このうち、消費者向け電気通信利用役務の提供は、事業者向け電気通信利用役務の提供「以外」のものをいいますが、だいたいの電気通信利用役務の提供は(性質としては)消費者向けです。
なので、取引条件等から、役務の提供を受ける者が通常事業者に限られれば「事業者向け」、そうでなければ「消費者向け」という感じで判定することが多いです。
3. 仕入税額控除の制限と登録国外事業者制度
消費者向け電気通信利用役務の提供に関しては、リバースチャージ方式のような特別な仕組みはありません。
ただ、現行制度においては、国外事業者から消費者向け電気通信利用役務の提供を受けた場合、シンプルに仕入税額控除が制限されています。つまり、原則として、その課税仕入れについて仕入税額控除はできないということです。
その例外が「登録国外事業者」からの課税仕入れで、これだけは仕入税額控除が認められます。
この登録国外事業者とは、消費者向け電気通信利用役務の提供を行う課税事業者である国外事業者で、国税庁長官の登録を受けた事業者をいいます。要は、ちゃんと日本で消費税を納税しそうな国外事業者ということです。
現行制度において、登録国外事業者から受けた消費者向け電気通信利用役務の提供について、仕入税額控除を行う場合、他の課税仕入れと同様、帳簿及び請求書等の保存が必要になります(「登録番号」などの追加記載の要件があります)。
4. インボイス制度導入による影響(あり)
そもそものお話になりますが、上記の登録国外事業者制度は、日本にインボイス制度がないことを前提としたものです。
なので、当初から、インボイス制度が入れば、登録国外事業者制度はそれに吸収される予定になっています。
具体的には、令和5年9月1日において登録国外事業者であった者は、原則として、令和5年10月1日に適格請求書発行事業者の登録を受けたものとみなす旨の規定が設けられています。
つまり、インボイス制度導入後は、国外事業者から消費者向け電気通信利用役務の提供を受けた場合、特別な取扱い(仕入税額控除の制限や登録国外事業者制度)はなくなります。
適格請求書発行事業者の登録を受けた国外事業者には、普通に適格請求書等の交付義務が課されて、その国外事業者から消費者向け電気通信利用役務の提供を受けた日本企業は、他の課税仕入れと同じように、仕入税額控除を行うためには一定の事項が記載された帳簿及び請求書等を保存する必要があります(詳細には以下の記事をどうぞ)。
一言でいうと、特別な取扱いがなくなって、普通になるってことです。
まあ、登録国外事業者として登録していなかった国外事業者は、適格請求書発行事業者の登録も受けない可能性が高いと考えれば、取引する日本企業としては、実態は変わらないことになりますね(いずれにせよ仕入税額控除は不可という意味で)。
今日はここまでです。
では、では。
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佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。