KAM本適用:収益認識② 出荷基準に関係する事例
引き続き監査のお話です。
Table of Contents
収益認識に関するKAM(監査上の主要な検討事項)
2021年3月期からKAM(監査上の主要な検討事項)の記載(本適用)が始まったので、ざっと分野別に事例を見ており、いまは収益認識に関するKAMについて書いています。
探していたもの=出荷基準に関係する事例
収益認識に関するKAMについて、全体の傾向らしきものは前回まとめたので(こちら)、今回からは、個人的に探していたようなKAMについて触れたいと思います。
まずは、「出荷基準」に関係するKAMです。
ちなみに、収益認識会計基準でも、商品や製品の国内の販売において、出荷時から支配移転時(e.g.顧客による検収時)までの期間が通常の期間であれば、出荷時に収益を認識することは可能です。
出荷基準に関心があったのは、顧客による検収タイミングでの収益認識のほうは、あからさまにKAMになりやすそうですが、出荷基準については、そうは思えなかったからです。
監査上は出荷のタイミングって相対的に把握しやすいはずなので、個人的な興味としては、「出荷基準でKAMになる場合、どういう決定理由になるのかな」という点がありました。
実際に事例を見てみると、出荷基準でKAMになっているものもいくつかありました(ちゃんと調べてないですが)。
ただ、KAMになるようなケースは、だいたいちゃんと理由が説明してあります。
外部倉庫からの出荷や仕入先からの直送
例えば、以下は、外部倉庫からの出荷や仕入先からの直送なんかに触れてます。
…○○○事業の商品は、外部倉庫から出荷されるものや、仕入先から直送されるものがある。このため、●●●株式会社における○○○事業の商品の販売契約については、実現主義の適用に当たって、外部倉庫や仕入先からの出荷事実を適時に把握していない場合、出荷日以外の日付で計上される可能性があり、不適切な会計期間に売上計上される潜在的なリスクが存在する。
(下線は追加)
出荷の事実が把握しづらいパターンで、そういうのが多い事業なのかもしれません。
これは納得です。
マスタ登録や出荷の回数
以下は、また少し違う内容です。
売上高の量的重要性があるけど、マスタ登録の回数が多かったり、出荷回数も多かったりするなか、マニュアル統制もあるから、ちょっとミスっちゃうかも、みたいなノリです。
…○○○事業、○○○事業の売上高は、基幹システムにマスタ登録された販売単価に、出荷若しくは顧客への納品時に入力される販売数量を乗じて算定され、会計システムへの自動連携を経て計上される。一方、取り扱っている製品の種類や取引先数が多く、販売単価は顧客との契約ごとに定期的に見直しがされるため、単価マスタの登録回数が多い。また、○○○事業、○○○事業の売上高の量的重要性は高く、個々の製品の販売単価は比較的少額であり主に日販品を取り扱っていることから、取引数(出荷回数)が多い。
(下線は追加)
売上高の取引フローには虚偽表示リスクを軽減する統制活動が含まれているが、手作業による統制も含まれるため、販売単価の見直しや取引数が多くなるにつれて単価マスタの入力誤りや変更漏れ、販売数量の入力誤りが発生する可能性が高くなる。適切な販売単価や販売数量に基づかない売上高が計上された場合には、誤った売上高が計上される。
以上より、量的重要性が高いことや単価マスタ登録、取引数(出荷回数)が多いことから、会社の主たる事業である○○○事業及び○○○事業の売上高について、当監査法人は監査上の主要な検討事項に相当するものと判断した。
「出荷若しくは顧客への納品時」とあるので、必ずしも出荷基準に限定していないようで、実際にこういうのは出荷基準なくても当てはまる内容なのかもしれません。
ただ、こういうケースでは、出荷基準でもKAMになるというのは理解しやすいです。
また、定型文っぽくないうえに、丁寧な説明で分かりやすくていいなあと思いました(感想文)。
ボイラープレートとは
そういえば、定型文で思い出したのですが、KAMが好きな人って、よく「ボイラープレート」って言いますよね。
「コピーして使いまわせるテキスト」みたいな意味なので、すぐに思いつく例としては、以下のような感じでしょうか。
「対策を徹底し、安心・安全な大会を実現できるよう、取り組んでまいります」
これで、全ての質問に対応可能なのが凄いですよね。「あなたの名前は何ですか?」とか「今日の晩ご飯は何でしたか?」と聞いても、これで返ってきそう(笑)
これとの比較で見ると、ボイラープレートじゃないKAMを頑張って書いた監査法人の方々を褒め称えたい気持ちになります。
シンプルに出荷基準に触れているもの
話を戻すと、出荷基準での収益認識に係るリスクという視点で、色々と理由をつけてくれればいいのですが、以下のようにシンプルなのは、書かれる企業の側からはきついかもしれません。
…●●●グループの○○○事業においては、主として製品の出荷日付を実現したと判断される時点として売上高を認識している。
(下線は追加)
当該実現主義の適用は、出荷の事実があること、及び出荷時から顧客による検収時までの期間が通常の期間であることを前提としているが、出荷の事実に基づかない売上が計上される潜在的なリスク、及び出荷時から顧客による検収時までの通常の期間を超えて出荷を前倒しで行うことにより、適切な期間に売上が計上されないという潜在的なリスクが存在する。
「出荷の事実に基づかない売上が計上される潜在的なリスク」というのは一般的なリスクですが、それをKAMに書かれると、ちょっと意味合いが変わってくるのかなと思います。
1つは何か書かないといけないとすれば、こういうのも候補になるのかもしれませんが、どういう背景があるんでしょうね。この項目を選択した何らかの事情があるのか、逆に他に何も書くことがないので売上高を選択したのか。
こういうの、投資家(というかアナリスト)の方々がどう判断するのか、ちょっと興味があります。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。