第24回 残余利益分割法(RPSM)における残余利益等の分割要因
引き続き「利益分割法(PS法)」シリーズです。
前々回、基本的利益の計算を見たので、今回からいよいよ残余利益等の分割要因にテーマを移します。
Table of Contents
1. 残余利益分割法の計算の流れ
確認になりますが、残余利益分割法(に準ずる方法)を使う場合、まずは分割対象利益等を算出し、そのうち自社と国外関連者のそれぞれに配分すべき基本的利益を計算します。
そして、次のステップとして、基本的利益を分割対象利益等から差し引いて、独自の価値ある寄与により生じた利益(残余利益等)を算出し、これを自社と国外関連者に配分することになります。
2. 残余利益等の分割要因
この残余利益等の自社及び国外関連者への配分については、残余利益等に対する独自の価値ある寄与の程度に応じて行います。したがって、その寄与が無形資産によるものである場合は、残余利益等の分割要因には所得の源泉となっている無形資産の寄与の程度を用いることになります。
と言うのは簡単なのですが、「え? 無形資産の寄与の程度って?」というのが普通の反応です。無形資産の価値評価がいかに大変かは、皆さんよくご存じかと思います。
3. 寄与の程度の測定
移転価格税制においては、無形資産の寄与の程度を測るために、法人または国外関連者が有する無形資産の価値の絶対額を求めることは必ずしも必要ないとされています。
このあたりまでは頷けるのですが、参考事例集では、この点について、それぞれが有する無形資産の相対的な価値の割合で足りるとしています。
なので、「はぁ?」となるのですが、続けて、以下の額を用いることも考えられるとしています。
(2)無形資産の形成・維持・発展の活動を反映する各期の支出費用等
「え? 結局コスト・ベースなん?」という結論に至るのですが、個人的には、こういう中途半端に理論的なところがちょっとイラっときます。純粋に理論的なら理論的でいいんですけど、急にそこから離れて「これならできるから」という実践的な話になる感じ。だからこそ、頭で考えて正しいと思っても、移転価格税制のことを知っていないと、間違った結論に至る可能性があるということです。
理論的に正しくするか、あるいは逆に法令でガチガチに縛ってほしいと思いますが、その間の「変に理論的なところ」で落ち着いているので、余計にややこしいんでしょうね。
(1) 無形資産の取得原価を用いる場合
それはそれとして、分割要因として、(1)無形資産の取得原価を用いる場合ですが、もちろん無形資産の価値を評価するよりは簡単です。
ただ、その取得原価も実は簡単に集計できません。参考事例集でも、「研究開発活動による特許権や製造ノウハウ等の形成・維持・発展に係る費用を個別に特定することが困難な場合も少なくない」とされています。
また、「取得原価」とはいうものの、無形資産の価値が時の経過とともに減少する場合には、個々の無形資産の価値が持続すると見込まれる期間を合理的、客観的に見積もることも必要になります。
(2) 無形資産の形成・維持・発展の活動を反映する各期の支出費用等の額を用いる場合
上記のとおり、(2)活動を反映する各期の費用の額を分割要因として残余利益等を配分することも認められます。
①各期の費用の発生状況は安定しているか
ただし、これはそれが合理的な状況、例えば、無形資産の形成・維持・発展の活動に着目して、その活動が継続的に行われ、活動を反映する各期の費用の発生状況が比較的安定している状況であることが前提になります。
そうではなくて、各期の無形資産の形成・維持・発展の活動の支出費用等の額に大きな変動がある場合など、各期の費用を分割要因として用いることに弊害がある場合には、以下の方法等によることも可能とされています。
②具体的には
残余利益等の分割要因として、無形資産の形成のために支出した費用等の額を使用する場合には、例えば、無形資産の形成活動との関係が深い次のような費用の中から関係する費用を特定することとなります。
:研究開発部門、製造部門の関係費用等
②ブランド、商標、販売網、顧客リスト等マーケティング活動に用いられる無形資産
:広告宣伝部門、販売促進部門、マーケティング部門の関係費用等
③事業判断、リスク管理、資金調達、営業に関するノウハウ等、上記①②以外の事業活動に用いられる無形資産
:企画部門、業務部門、財務部門、営業部門等、活動の主体となっている部門の関係費用等
4. 移転価格調査における視点
分割要因については、残余利益等の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいものを用いる必要があります。
この点について、(国税庁 「移転価格税制の適用におけるポイント」)では、移転価格調査においては、分割要因の計算に当たり、以下が検討対象になる旨の記載があります。
例えば、製造に係る無形資産の形成(維持・発展)に係る費用が残余利益の発生に寄与した程度を推測できる場合、具体的には、以下のような検討を行うということです。
今日はここまでです。次回は、残余利益分割法における残余利益等の分割要因について、ケースの形で見ていきたいと思います。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。