第3回 重要な価値を有する無形資産とは(移転価格税制)
引き続き「無形資産の使用許諾取引」シリーズです。
今回は、ちょっと根本的なお話から始めます。
Table of Contents
1. 所得の源泉としての無形資産
移転価格税制において、法人または国外関連者の利益水準を検討する際に重要なのが、「その利益が何によって生み出されたものか」という視点です。
そして、その検討には、「その利益は無形資産により生み出されたものかどうか」という検討も含まれます。
言い換えると、移転価格税制の文脈では、無形資産は利益(所得)を生み出すものです。「所得の源泉」といってもいいかもしれません。機能やリスクがあるところに所得が配分されるのと同様、無形資産があるところに所得が配分される、という整理です。
2. 重要な価値を有する無形資産
事務運営指針では、無形資産の使用を伴う国外関連取引を行っている場合、比較対象取引の選定に当たって、「無形資産の種類、対象範囲、利用態様等の類似性」について検討する必要があるとしています。
一方で、無形資産には色々な種類があるので、「無形資産をすべて特定しろ」と言われると困ります。
ただ、実際にはそこまでは求められていません。というのも、移転価格税制上、所得の源泉となる無形資産は、「重要な価値があると認められるもの」に限定されているからです。
ということは、「無形資産があるかどうか」の次の段階として、「その無形資産が重要な価値を有するかどうか」の判断が必要になります。この点は決定的に重要で、その判断に当たっては、「国外関連取引の内容」や「法人及び国外関連者の活動・機能、市場の状況」等を十分に検討する必要があります。めっちゃ漠然としてますけど。
もう少しいうと、原価低減や広告宣伝といった活動は無形資産を生み出す可能性があります。しかしながら、そういった活動は、ほとんどの企業が何らかの形で行っているものです。その意味で、「単にこうした活動を行っている=重要な価値を有する無形資産を形成している」とはなりません。それだけでは、所得の源泉となる無形資産を形成していると認定されないということです。
3. 基本的活動のみを行う法人との比較
もう少し具体的には、法人または国外関連者の有する無形資産が「所得の源泉となっているかどうか」の検討に当たっては、法人または国外関連者の国外関連取引に係る利益率等の水準について、「基本的活動のみを行う法人」のそれとの比較を行うという発想があります。
ここでいう「基本的活動のみを行う法人」とは、国外関連取引の事業と同種の事業を営み、市場、事業規模等が類似する法人のうち、独自の機能を果たさない法人をいいます。シンプルに言うと、重要な価値を有する無形資産を持ってなさそうな法人です(詳細は以下の記事をご参照ください)。
また、このような基本的活動のみを行う法人との比較のみならず、法人または国外関連者の無形資産の形成に係る活動、機能等(例えば、研究開発や広告宣伝に係る活動・機能など)についても、当然ながら十分に分析する必要があります。
こうやって、「重要な価値を有する無形資産があるのか、ないのか」を検討していくということです。
4. 最後に
今日のお話は、結構重要です。重要な価値を有する無形資産の有無によって、独立企業間価格の算定方法の選定も変わってきたりするので。
例えば、日本側と海外側のうち片方の無形資産だけが所得の源泉になっている場合、取引単位営業利益法を使ったり、日本側と海外側の両方の無形資産が所得の源泉になっている場合、残余利益分割法を使ったりとか、そんな感じです。
このあたりは、もうちょっと先のほうで確認します。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。