インボイス制度:購買部門で必要な対応をごく簡単に
消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)については、これまでちょこちょこ勉強会もやってきましたが、だいぶ準備が進んでいる印象で、この秋も色んな企業の方々とお話をさせて頂く予定です。
その関係で、ちょっと気になったことがあったので、今日はそれについて書きます。具体的には、購買部門におけるインボイス制度対応のことです。
Table of Contents
1. 経理部門と購買部門の関係
インボイス制度への対応に関して、ある意味で経理部門以上に大変なのが購買部門です。
個人的な感想ですが、購買部門の方々にインボイス制度のことを伝えるのは、かなり楽です。「適格請求書が入手できないと、自社のコストが上がる」というのは、感覚として理解しやすいのかもしれません。
ただ、経理部門が購買部門とコミュニケーションをとる場合には、必ずしもスムーズではなさそうです。私の見た感じ、ケンカ…じゃなくて…活発な議論が行われています。私が勉強会をやっているときは、にこやかに対応してくださるものの、あとで経理部門と押し付け合いになるパターンもあるようです(笑)
2. 購買部門は何が大変なのか
購買部門にとって最も大変なのは、仕入先とのコミュニケーションだと思います。特に免税事業者との取引が多い場合には。
必要な事前対応については、下記3.にまとめていますが、購買部門の場合、対応は一時的なものでは済みません(たぶん)。
インボイス制度の導入後は、単純な事務作業として、入手した請求書等が適格請求書なのかどうかの判断が必要になります。必ずしも購買部門が担当しないのかもしれませんが、仕入先が発行した適格請求書の内容のチェックは、結構手間がかかりそうです。
いつもながら私は職務分掌のことがよくわかりませんが、誰がどこまでチェックするかも含めて、経理部門主導で整理しておいたほうがよさそうですね。
3. 購買部門で把握すべき情報(事前対応)
インボイス制度への事前対応という意味で、購買部門に求められる対応は、以下のような感じでしょうか(別に他部門がやってもいいんですけど)。
(2) 課税事業者で、適格請求書発行事業者の登録を行わない(予定の)取引先を抽出する
(3) 課税事業者で、適格請求書発行事業者になる(予定の)取引先について、どういう証憑書類をもとに仕入税額控除を行っているかを把握する
(1) 免税事業者との取引
上記(1)については、免税事業者との取引の見直しを検討する以前に、そもそも免税事業者との取引を区分して把握していないケースもあります。こういう場合、その洗い出しから行うとすると、結構大変ですよね。
また、免税事業者との取引については、それを継続するかどうかの検討に加えて、価格交渉なんかも必要になるかもしれません。取引を継続する場合にはコスト増になる可能性もあるので、経過措置も加味しつつ、そのあたりのコストも管理する必要があります。
もちろん、独占禁止法や下請法への配慮も必要だと思います(詳細はこちら)。
(2) 適格請求書発行事業者に該当しない課税事業者
(2)については、レアですけど、一応そういう区分もあるということで(詳細はこちら)。
(3) 適格請求書発行事業者との取引
上記(3)の適格請求書発行事業者との取引については、仕入税額控除のことを考える必要があります。
仕入税額控除の基礎資料については、自社が仕入明細書を発行する取引形態であれば、自社のフォームを整えるだけなので、対応はラクです。
一方で、仕入先から請求書等を受け取っている場合は、結構面倒で、例えば、以下を把握しておく必要があります。
要は、インボイス制度の導入後、何をもって「適格請求書」とするか、事前に仕入先と合意しておく必要があるということですね。
言いだすとキリがないですが、インボイス制度に合わせて、請求書以外の書類(契約書等)も記載を見直すケースもありそうだし、その他、恒常的に値引きや返品が発生する取引形態の場合、そういうことも考えないといけないし。
また、実際には、システム対応が必要になることも多そうです(私は絶対にタッチしませんが)。
4. 購買部門の役割って…
私の理解では、国の制度が変わって、それにより仕入単価が変動するので、それをコントロールするのは購買部門の役割のように思うのですが、一方で、「インボイス制度は消費税の話なんだから、経理部門でやってくれ」的な購買部門のスタンスも感じます。結果、結構険悪な雰囲気になったりも(笑)
インボイス制度の導入によるコスト増は、別に経理部門の責任ではないんですけどね。
ただ、理解できるのは、購買部門にもそんな余分なリソースなんか無いし、仮にあったとしてもインボイス制度への対応にリソースを割きたくないだろうなということです(面と向かっては言われないですけど)。
企業の方々とお話する限り、現状、控除対象外消費税を部門費として割り振るのは必ずしも一般的ではなさそうですが、コスト負担(コスト増)の責任関係を明確にするためには、そういうことも考えたほうがいいかもしれませんね。
今日はここまでです。
では、では。
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佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。