GloBEルールにおける調整対象税金とは(第2の柱)
今は新しい国際課税の枠組みに関して、GloBEルールのことを書いています。
Table of Contents
1. GloBEルールと実効税率計算上の調整対象税金
GloBEルールは、最低税率(15%)を導入する「Pillar Two(第2の柱)」の構成要素の1つで、多国籍企業に対する最低限の税負担を確保するために導入される国内法上の措置です。
前々回は、このGloBEルールにおける実効税率(ETR:Effective Tax Rate)の計算について書きました(以下の算式)。
そして、前回は計算式の分母である純GloBE所得を確認しましたが、今回は、計算式の分子である調整対象税金について。
2. 調整対象税金と対象税金
調整対象税金(Adjusted Covered Taxes)は、実効税率の分子なので、当然ながら税金です。
とはいえ、これもベースとなる金額は会計上の数値なので、ちょっと面食らうところがあるかもしれません。
まず、Adjustedを除いた部分、つまり、対象税金(Covered Taxes)は、以下を意味します。
ただし、調整対象税金のほうは、Adjustedとあるように、単なる税金(Covered Taxes)ではなく、会計上の当期税金費用からスタートして、結構色々な調整を加えます。
計算過程を追っていくと、だいたいの意味合いはわかるのですが、私もちょっとよくわからないところがあります(笑)
3. 当期税金費用(current tax expense)
まず、ベースとなる金額は、その国・地域に所在する各構成事業体の会計上の当期税金費用の額(current tax expense)です。
日本だと、「法人税、住民税及び事業税」とか「法人税等」とか呼ばれるものですね。
ただ、これに諸々の調整を加える必要があります。
なお、以下で書きますが、税効果の調整も含むので、あんまりcurrent tax expense自体に着目しないほうがいいとは思います。
4. 当期税金費用に対する調整
じゃあ、調整項目がどういうものかというと、具体的には、以下のようなものがあります。
(2) 繰延税金調整
(3) その他
当期税金費用の額に対して、上記の調整を行うことで、調整対象税金(Adjusted Covered Tax)が計算されるということですが、上記(1)~(3)のそれぞれの内容を以下でさっぱりと書いてみます。
(1) 加減算項目
上記(1)について、当期税金費用に対して加減算される項目には様々なものがあります。
例えば、加算調整される項目として、税引前利益に反映されている対象税金などがあります。
一方で、減算調整される項目としては、GloBE所得または損失(GloBE Income or Loss)から除外される所得に係る当期税金費用などがあります。
これらは、実効税率の分母子の整合性を確保するための調整と整理できます。
このあたりはわかりやすいところですが、不確実な税務ポジション(uncertain tax position)に係る当期税金費用は減算して、それが実際支払われたら加算するなどの調整も行います。
これ以上は書かないですけど、こんな感じで、会計っぽい話も多そうです。
(2) 繰延税金調整
上記(2)について、繰延税金調整というのは、いわゆる一時差異に係る調整とされており、具体的には、繰延税金調整総額(Total Deferred Tax Adjustment Amount)について調整を行うことになります。
繰延税金調整総額のベースは、会計上の繰延税金費用の額(deferred tax expense)です。
日本だと「法人税等調整額」と呼ばれるものですね。
ただ、当期税金費用に係る調整と同じく、これにも様々な調整を加える必要があります。これ、ほんとにやるんですかね。
GloBE所得または損失(GloBE Income or Loss)から除外される所得に係る繰延税金費用の除外なんかは、当期税金費用のときと同じなので、わかりやすいところです。
また、繰延税金費用が15%超の税率で計算されている場合、15%の税率にrecastする(繰延税金費用を再計算する)といったあたりは理解できます。
「recastって何?」というご質問を頂いたのですが、うまく説明できません。recalculateに近いと思いますが、単なる再計算ではなく、財務数値の修正というイメージだと思います。
ただ、正直なところ、いくつかの項目はよく意味が分かりません。これも会計と親和性が高そうなテーマのような気もしますが、趣味で突き詰める気にはなりません。クライアントで勉強会をやるとなったら、ちゃんと考えようかなと思います(笑)
それと、もう1つ、繰延税金調整については、GloBE Loss Electionという選択肢もあります。
具体的には、その国・地域が純GloBE損失(Net GloBE Loss。詳細はこちら)のポジションである場合、上記の繰延税金調整総額の算定を行わず、純GloBE損失に15%を乗じて繰延税金資産(GloBE Loss Deferred Tax Asset)を計算するという選択が可能です。
こうやったほうが、現地の税効果計算よりも繰越欠損金の税効果がうまく反映されるんでしょうね。断然ラクそうだし。
(3) その他
上記(3)については、資本直入されたり、OCIとして計上されたりした対象税金の増減のうち、GloBE所得または損失(GloBE Income or Loss)に含まれる項目に関連するものに係る調整です。
5. 構成事業体間の対象税金の配分
これで調整対象税金が算定できたかと思いきや、もう1つ、考えるべきことがあります。
すなわち、対象税金をGloBE所得または損失(GloBE Income or Loss)に対応させるために、構成事業体間で対象税金を配分(allocation)する必要があります。
例えば、わかりやすいところでは、以下のような感じです。
CFCルールのところは、日本でいえば、タックス・ヘイブン税制が該当しますが、仮に合算課税が行われた場合、その課税額は現地側の対象税金に含めるイメージです(ただし、受動的所得に関しては一定の制限あり)。あくまでも概念的には、ということですけど。
順番としては、先にタックス・ヘイブン税制があって、それも加味してGloBEルールを適用するイメージなんだと思います。言い方を変えると、タックス・ヘイブン対策 税制の適用対象になっていれば、たぶんGloBEルールの適用対象にはならない、というイメージです(知らんけど)。
6. 調整対象税金の集計
最後に、その国・地域に所在する各構成事業体に係る調整対象税金の合計額を計算します。
これが、その国・地域の実効税率計算上の分子となるということで。
ちゃんと理解できていないところは残っていますが、ロジックとしては流れている気がします。
問題は、実際にこれをやるのかどうかです。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。