インボイス制度:不動産賃貸に係る保証金(返還されない部分)のインボイス対応
消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)について、ここ数か月の議論のアップデートです。
今回のテーマは、不動産賃貸に係る保証金(返還されない部分)のインボイス対応です。
税務通信(3754号)に解説があるので、詳細についてはそちらをどうぞ。
Table of Contents
1. 前提となる情報
詳細は以下の記事にまとめていますが、オフィスなどの賃貸借契約時に借主が支払う保証金のうち、契約の終了により返還されるものは、消費税の課税対象にはなりません(不課税です)。
そもそも資産の譲渡等の対価に該当しないので。
一方、オフィスなどの事業用建物の場合、賃貸借契約の締結や更新に伴う保証金等のうち、返還されないものは消費税の課税対象になります(権利の設定の対価となるため)。
また、返還されない保証金について、課税資産の譲渡等の時期(借主側から見ると、課税仕入れの計上時期)は、返還しないこととなった課税期間とされています。
これが前提となる情報であり、ここからは「オフィスなどの事業用建物について返還されない保証金等がある」、言い換えると、「それについて消費税の課税が行われる」場合の取扱いを考えます。
2. インボイス制度対応が必要
当然のことですが、インボイス制度導入後は、返還されない保証金について、インボイス制度対応が必要になります。
具体的には、適格請求書発行事業者である貸主の側では、課税資産の譲渡等があった時点で、借主の求めに応じてインボイスを交付する義務が生じます。
逆に借主の側では、仕入税額控除を適用するために、貸主からのインボイスを保存する必要があります。
3. インボイスの交付タイミング
問題は、「いつ」インボイスの交付義務が生じるかです。
この点、契約締結時に保証金の一部が返還されないことが確定している場合は、その契約締結時が課税資産の譲渡等の時期となり、インボイスの交付義務が生じるそうです。
つまり、貸主は、契約締結時に、返還しない保証金の金額について、登録番号等を記載したインボイス(領収書など)を交付する必要があります。もちろん、契約書などに登録番号を追記する形などでもOKです。
一方、一定期間経過ごとに一定金額を返還しないことが確定する場合は、その一定期間経過ごとに(返還しないこととなる金額の確定額について)課税資産の譲渡等があったものとして、その都度、インボイスの交付が必要となるそうです。
もちろん、借主のほうは、そのインボイスを保存する必要があります。
4. まとめると
まとめると、それが契約締結時であっても、保証金の償却時であっても、とにかく保証金が返還されないことが確定したタイミングで、領収書等のインボイスを交付したり、保存したり、という対応が必要になるということです。
税務通信の記事によると、現行の実務では、返還されない保証金に係る領収書等は、契約終了に伴う精算時に交付されることが多いらしいので、借主の立場からは、注意が必要っぽいですね。
今日はここまでです。
では、では。
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佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。