監査役にとっての繰延税金資産の回収可能性の問題
今週は、日本監査役協会さんのセミナーがあるので(詳細はこちら)、監査役監査のことを書いてます(お断りなどはこちら)。
今日はいきなりピンポイントなのですが、セミナーでお話しする内容ということで、繰延税金資産の回収可能性のことを書きます。
Table of Contents
1. 繰延税金資産の回収可能性の問題
繰延税金資産の回収可能性は、企業によっては、結構重要な問題です。
ただ、会計監査の範疇なので、基本的に会計監査人が担当するテーマではあります。
とはいえ、監査役は会計監査人の会計監査の相当性を判断しなければなりません。
ということで、セミナーでは、繰延税金資産の回収可能性の問題も扱おうと。
2. セミナー資料の作成中に発見
で、そのあたりの資料を作っていたのですが、ちょっと気になったので、以下の記事でオススメしている『監査役監査の基本がわかる本』(EY新日本有限責任監査法人 編)という書籍を読んでみました。
「何か触れられてたっけ?」と思って、「計算関係書類(連結・個別)の監査」のページを開いたのですが、結構がっつり書いてありました。
具体的には、「繰延税金資産」の項に以下のような記述がありました。
繰延税金資産は、将来の事業年度において回収不能が明らかになれば取り崩さなければなりません。繰延税金資産が計上されている事業年度に繰延税金資産に相当する金額が配当の原資として使われた場合には、繰延税金資産を計上した時点に遡って繰延税金資産を計上したことの妥当性を問われることがあり,当時の配当決議が違法配当であったと判断される可能性もあるため、留意が必要です。
(注)下線は追加
これです、これ。結構踏み込んで書いてると思います。
これがたぶん(まともな)会計監査人の感覚です。いい本ですねー。
3. なぜ繰延税金資産の回収可能性は慎重に検討する必要があるのか
このあたりはセミナーでお話ししますが、繰延税金資産は(資産性が)かなり怪しい資産です。少し将来見通しが変わるだけで、金額が大きく動くので。
ただ、繰延税金資産については、配当や自己株式の取得の際に財源規制がかかっていません。
言い換えると、分配可能額の計算にあたり調整対象にならないということです。
なので、下図のような状況になってると危ないということです。
ちなみに、このセミナーのベースは、以下の書籍で、こういう図表みたいなものが詰め込まれた本です(書いて頂いた書評についてはこちら)。
こういう図解が好みの方は、ぜひ書店で現物を手に取ってみて頂ければと思います。
4. 監査法人とのコミュニケーションが重要
話を戻すと、監査法人の人たち(ただし、まともな人たちに限る)は、こういう状況の怖さって、よくご存知のはずです。
なので、もし繰延税金資産の金額が大きかったり、純資産(剰余金)が薄めだったりしたら、ちゃんと監査法人とコミュニケーションをとられたほうがいいんじゃないかと思います。
今日はここまでです。
では、では。
↓監査役監査に関するオススメの書籍です(私の本ではないです。軽い紹介記事はこちら)。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。