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佐和周のブログ

電子帳簿保存法

電子取引に関する衝撃の補足説明…紙保存は廃止されていない?

【2022年7月追記】
この記事は古い記事です。以下の記事で、確定情報(2021年12月の施行規則改正)について書き直しているので、そちらをご参照ください。

 

電子帳簿保存法に関するオススメの書籍です(私の本ではないです。第2版の紹介記事はこちら)。

第3版 電子帳簿保存法の制度と実務(Amazon)

 

 

土曜日の続きで、電子帳簿保存法における電子取引の制度のお話です。

0. この記事のポイント

国税庁が2021年11月12日に公表した「お問合せの多いご質問」のⅣ【補足説明】では、紙保存している場合の青色申告の承認取消しや損金性の否認に関する言及があります。そこでは、電子取引のデータ保存の必要性に関する主張は大幅にトーンダウンしている印象で、当初の一問一答における「出力した書面等については、他者から受領した電子データとの同一性が担保されない」等々のスタンスは見る影もありません。法律でデータ保存が必要と書いてあるのですが、結局どうしたいんでしょうか?

 

 

1. 国税庁:「お問合せの多いご質問」

土曜日にもお伝えしたとおり、国税庁は2021年11月12日、「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)」に関する「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」を公表しました(リンクは以下です)。

「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)~令和4年1月1日以後に保存等を開始する方~」に関する「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」

土曜日は、このうち電子取引の制度の関係の情報のみを抜き出して、Ⅲ【電子取引関係】の7つの追加質問を要約しました(以下の記事です)。

 

ただ、この資料には、これに加えて、Ⅳ【補足説明】というものもあり、既存の一問一答の内容を補足しています。

2. 今日は【補足説明】について

今日は、このⅣ【補足説明】の内容についてです。

補足説明は、「補1」~「補4」の4つありますが、そのうち3つは別に大した話ではありません。

ただ、1つだけ、衝撃の補足説明があります。「これは補足なのか?」という意味で、「補足」の概念を根底から覆す内容です。

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3. 一問一答【電子取引関係】問42(補4)

具体的には、「補4 一問一答【電子取引関係】問42」です。

(1) もともとの問42の内容

正確を期すために、ちょっと長いですけど、国税庁のQ&A(一問一答)から引用します。

まず、もともとの一問一答における問42の内容は以下のとおりです。

問42 電子取引の取引情報に係る電磁的記録について保存要件を満たして保存できないため、全て書面等に出力して保存していますが、これでは保存義務を果たしていることにはならないため青色申告の承認が取り消されてしまうのでしょうか。また、その電磁的記録や書面等は税務調査においてどのように取り扱われるのでしょうか。

(下線は追加)

これ、結構話題になったので、ご存知の方も多いと思います。

これに対する回答は以下のとおりです。

【回答】
 令和4年1月1日以後に行う電子取引の取引情報に係る電磁的記録については、その電磁的記録を出力した書面等による保存をもって、当該電磁的記録の保存に代えることはできません。
 したがって、災害等による事情がなく、その電磁的記録が保存要件に従って保存されていない場合は、青色申告の承認の取消対象となり得ます。なお、青色申告の承認の取消しについては、違反の程度等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるかどうか等を検討した上、その適用を判断しています。
 また、その電磁的記録を要件に従って保存していない場合やその電磁的記録を出力した書面等を保存している場合については、その電磁的記録や書面等は、国税関係書類以外の書類とみなされません。ただし、その申告内容の適正性については、税務調査において、納税者からの追加的な説明や資料提出、取引先の情報等を総合勘案して確認することとなります。

(下線は追加)

また、これについては、以下のように解説されています。

【解説】
 電子取引の取引情報に係る電磁的記録については、法第7条の規定により保存義務が課されていることから、その電磁的記録を保存する必要があります。そして、電子取引の取引情報に係る電磁的記録について要件を満たさず保存している場合や、その電磁的記録の保存に代えて書面出力を行っていた場合(※)には、保存すべき電磁的記録の保存がなかったものとして、青色申告の承認の取消の対象となり得ますので注意してください。

※ 令和3年度の税制改正前の電子取引の取引情報に係る電磁的記録を書面等に出力することにより保存を認める取扱いは廃止されています。
 
 なお、青色申告の承認の取消しについては、「個人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」に基づき、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるかどうか等を検討した上で行うこととしています。
 また、電磁的記録を要件に従って保存していない場合やその電磁的記録を出力した書面を保存している場合において、その要件に従って保存がされていない電磁的記録や出力した書面等については、他者から受領した電子データとの同一性が担保されないことから国税関係書類以外の書類とみなされません
 ただし、その申告内容の適正性については、税務調査において納税者からの追加的な説明や資料提出、取引先の情報等を総合勘案して確認することとなります。
(以下略)

(下線は追加)

これ自体は筋が通っていると思います。

電子取引については、書面等に出力して保存するのはNGで、保存要件に従っていない場合には、青色申告の承認の取消対象となり得るということですね(「なる」のではなく、あくまでも「なり得る」)。

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(2) 問42に関する補足説明

ただ、これについて、「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」の「補4 一問一答【電子取引関係】問42」では、以下のように補足説明されています。

【補足説明】
 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務に関する今般の改正を契機として、電子データの一部を保存せずに書面を保存していた場合には、その事実をもって青色申告の承認が取り消され、税務調査においても経費として認められないことになるのではないかとの問合せがあります。
 これらの取扱いについては、従来と同様に、例えば、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由が無いにも関わらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。

(下線は追加)

えーっと、「従来と同様に」って?

いったい電子帳簿保存法の改正とは。。。

上の解説では、わざわざ「※」まで付けて、「※ 令和3年度の税制改正前の電子取引の取引情報に係る電磁的記録を書面等に出力することにより保存を認める取扱いは廃止されています。」って明記してありますが、それでも判断基準は従来と同様なのでしょうか?

それよりも衝撃的なのは、「保存すべき取引情報の内容が書面…から確認できるような場合には、…それ以外の特段の事由が無いにも関わらず、直ちに…金銭の支出がなかったものと判断され…るものではありません」の部分です。

当初の【解説】では、「出力した書面等については、他者から受領した電子データとの同一性が担保されない」って言ってませんでしたっけ? その勢いはどこへ?

これ、今までどおり紙保存していたとしても、取引内容を正しく記帳して申告に反映してさえいれば、損金性は否認されないということですよね(法人税の話です)。

とすると、紙保存のデメリットって何なんでしょう? 調子に乗り過ぎると、青色申告の承認が取り消されることくらいでしょうか? などと言いたくなる気分です。

「補足説明」と銘打ってますが、電子取引の制度の根幹に関わるもののような気もします。

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4. 予想されるリアクション

ただ、このような疑問を呈したとしても、もはやリアクションは予測可能です。

誤解を与えたのであれば申し訳ない」ですよね?(non-apology apology)

すみません、完全に「誤解」していました。

ただ、さらに深読みすれば、補足説明のほうを「誤解」している可能性もあります。

なので、一問一答への反映待ちですね。それも「誤解」してしまいそうなので、キリがないですけど。

こういうのをちゃんと誤解せずに読み取れる人が、電子帳簿保存法対応ができる専門家なんだろうなと思うので、やっぱり私は向いてないです。

これ、あと1か月半で開始する制度ということを考えると、今これを議論していること自体が何よりの衝撃だといえますね。

真面目に対応するのが馬鹿らしくもなりますが、企業の方たちのほうがもっと大変なので、私も初年度限定でしっかりやろうと思います。

では、では。

■電子帳簿保存法の電子取引に関する記事の一覧はこちら

 

この記事を書いたのは…
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら

 

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