繰延税金資産の回収可能性の判断:3つの重要な論点
これから不定期で、決算時によく揉めるテーマについて、ちょっとずつ書いていきたいと思います。
新年早々に選択すべきテーマかはちょっと疑問ですが。。。
Table of Contents
1. 繰延税金資産の回収可能性の判断
今日は、繰延税金資産の回収可能性の判断についてです。
仕事柄、税効果については触れることが多く、以前に『ケース別 税効果会計の実務Q&A』という本を書きました。
この本は、固定資産に関係する税効果、人件費に関係する税効果、金融商品に関係する税効果、みたいな感じで、ただひたすら、税効果が適用されるケースを列挙していくものなので、繰延税金資産の回収可能性自体を突っ込んで書いたわけではありません。
ただ、個人的には、繰延税金資産の回収可能性の問題は、決算上(監査上)は最も重要なテーマと言えるのではないかと思っています。
2. なぜ監査法人と揉めるのか
監査法人との間では、繰延税金資産の回収可能性はよく議論になると思います。
まずは、それがなぜか、というお話からです。
繰延税金資産については、その資産性が将来の課税所得の発生に依存するという意味で、結構「危うい」資産なのですが、配当制限はかかってません。
そのため、私が監査法人にいたときも、監査法人にとっての最悪のシナリオの1つとして、以下を考えていました。
➡ 違法配当
➡ 監査法人に対する責任追及
会計上は、法人税等調整額が(税引後の)当期純利益にダイレクトに影響するなど、損益面での重要性があります。ただ、やっぱり監査上は、違法配当までいかないとしても、過大計上のリスクという視点が重視されているように思います。
だから、一般論としては、繰延税金資産の回収可能性について、監査法人はとにかく保守的に、保守的に、という方向に思考が働くのではないでしょうか。
つまり、そもそもベストの見積りをしようという発想はなく、そこに「財政状態や経営成績を適正に表示しているかどうか」という視点もあまりないような気がします(たぶん言い過ぎ)。
みんながみんなそんな考え方ではないと思いますが、監査法人と議論するうえでは、監査法人のスタンスを正しく認識しておくことが重要だと思います。
3. どういうポイントで揉めるのか
背景はこれくらいにして、もう少し具体的なお話です。
繰延税金資産の回収可能性について、監査法人と揉めるポイントにはいくつかありますが、個人的によく遭遇するベスト3(ワースト3?)は以下です。
(2) 同じく、分類4の「重要な税務上の欠損金」の解釈
(3) 将来の(一時差異等加減算前)課税所得の見積り
その他、将来減算一時差異のスケジューリングの可否もテーマとしてはありますが、結構技術的な話なので、それなりに納得する形に落ち着くことが多いように思います。
また、分類4の企業が、一定の要件を満たすものとして、分類2・3(特に分類3)に該当する取扱いにしようするケースもあるかもしれませんが、なかなかハードルが高いので、ここでは取り扱わないことにします(またいつか書くかもしれません)。
ということで、上記3つの論点について見ていきたいと思いますが、それぞれが結構長くなりそうなので、次回からスタートということにします。
4. 繰延税金資産の回収可能性を議論することの意義
今日は導入部分ということで、最後に、繰延税金資産の回収可能性について議論することの意味合いに触れます。
企業側から見て、この議論が重要な理由の1つとして、業績変動の増幅効果を考えておく必要があります。
つまり、業績が悪くなると、繰延税金資産の回収可能性が問題になりやすく、仮に繰延税金資産の取崩しが発生した場合には、税引後利益ベースではさらに業績が悪化するということです。
この点、『この取引でB/S・P/Lはどう動く? 財務数値への影響がわかるケース』という本に以下のように書きました。
繰延税金資産の回収可能性を見直した場合に生じた差額は、基本的に見直しを行った年度における法人税等調整額に計上するので、損益計算書にインパクトを与えます。
この点をもう少し考えてみると、まず足許の業績が変動する場合、それが将来の業績見込みに影響し、ひいては繰延税金資産の回収可能性に影響する可能性があります。そして、それにより繰延税金資産が増減すると、それは税金費用の増減を通じて、足許の業績(最終損益ベース)に跳ね返ります。つまり、将来の業績見込みが繰延税金資産の回収可能性に影響するという構造は、足許の業績変動を増幅させる方向に作用するということです。
なかなかよくまとまってますね(笑)
今日はここまでにして、次回から具体的な論点ごとに見ていきたいと思います。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。