第22回 独立企業間価格の幅(レンジ)の取扱い(移転価格税制)
引き続き「取引単位営業利益法(TNMM)」シリーズです。
ここ最近は差異調整のお話が多かったですが、少し前には比較対象取引候補のスクリーニング(選別作業)についてもお話ししました。
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1. 比較対象取引が複数存在する場合の取扱い
今回お話しするのは、そうしたスクリーニングを行った結果、「比較対象取引が複数存在する場合」の取扱いです。
言い換えると、「独立企業間価格に一定の幅がある場合」の取扱いですね。
結論としては、「国外関連取引の対価の額がその幅の中にあるのであれば、移転価格課税は行われない」ということになりますが、この点を順番に確認していきたいと思います。
2. 幅の中に国外関連取引に係る価格や利益率等がある場合
まず、これはTNMMに限りませんが、独立企業間価格を算定するに当たり、比較可能性が十分な非関連者間取引(比較対象取引)が複数存在し、独立企業間価格が一定の幅を形成している場合があります。
この場合、その幅の中に国外関連取引に係る価格または利益率等があるときは、移転価格課税の対象にはなりません。
ただ、これは比較対象取引の類似性の程度が十分であることが前提です。
特に独立企業間価格の幅をフルレンジ(最大値と最小値の間の幅)として算定する場合には。
もちろん、四分位レンジ(上位25%と下位25%を除く中央50%の幅)を使えば、ある程度異常値は排除されますが、その場合であっても、類似性の程度が不十分な非関連者取引により形成された数値の幅は、当然ながら独立企業間価格の幅には該当しません。
3. 幅の外に国外関連取引に係る価格や利益率等がある場合
一方、その幅の「外」に国外関連取引に係る価格または利益率等がある場合には、調整が必要になります。
もうちょっと正確にいうと、以下のような場合には、調整が必要になるということです。
・その価格または利益率等(差異調整後。「比較対象利益率等」)が形成する一定の幅があり、
・その幅の外に国外関連取引に係る価格または利益率等がある
これも当たり前のことですけどね。
この場合、原則として、その比較対象利益率等の「平均値」に基づいて独立企業間価格を算定します。
ただし、比較対象利益率等の分布状況等に応じて、中央値などのほうが合理的と判断されれば、中央値などを用いて独立企業間価格を算定します。
4. 移転価格税制上の問題の有無を判断する局面
上記とは別の局面になりますが、税務当局側が、移転価格税制上の問題の有無を判断する目的で、国外関連取引に係る利益率等が、「比較対象取引候補に係る利益率等の範囲内」にあるかどうかを検討することがあります。
これらはあくまでも「候補」なので、十分なスクリーニングを行う前のものです。
そのため、利益率等の幅が相当広い場合もありえるわけですが、参考事例集においては、この検討にあたっても、四分位レンジ等を活用することが適切な場合もあるとしています。
今日はここまでです。
では、では。