グローバル・ミニマム課税:⑥国際最低課税額(=トップアップ税額)の計算イメージ(大綱)
一昨日(2022年12月16日)、令和5年度与党税制改正大綱が公表されたので、そのうち「グローバル・ミニマム課税への対応」という項目について、1記事あたり10分で(W杯決勝開始から逆算)、少しずつ書いています。
端的には、GloBEルール(第2の柱)のうちIIRに関するお話で、今回は国際最低課税額(=トップアップ税額)がテーマです。
Table of Contents
1. GloBEルールにおける「超過利益×トップアップ税率=トップアップ税額」の計算
GloBEルールにおいて、ある国・地域の実効税率が15%未満となる場合、まずやるべきことは、トップアップ税率(Top-up Tax Percentage)と超過利益(Excess Profit)の計算です(以下の記事参照)。
(1) トップアップ税率の計算
トップアップ税率は、シンプルに国・地域の実効税率が最低税率(15%)を上回る部分であり、算式で見ると以下のとおりです。
(実効税率<15%の前提)
(2) 超過利益の計算
また、トップアップ税率を乗じるべき対象、つまり、超過利益のほうは、純GloBE所得がベースになります。ただ、そこから一定のカーブアウト額(carve-out)を控除する必要があり、算式で見ると以下のとおりです。
このカーブアウト額は、Substance-based Income Exclusionと呼ばれ、端的には、実質的活動に係る所得をGloBEルールの対象から「除外」するという意味合いと考えられます。
ここで、上式のカーブアウト額は以下の合計額です。
・tangible asset carve-out:その国・地域に所在する有形固定資産の帳簿価額×一定の料率(b)
基本的には、それぞれの生産要素に対するルーティンのリターンという位置付けで、逆にいうと、それを超える部分なので、「超過」利益というニュアンスなんだと思います。
(3) トップアップ税額の計算
トップアップ税率が計算できて、超過利益も計算できたら、あとは基本的に両者を掛け算するだけです。
ただし、ここから国内トップアップ課税額を控除する必要があります(実際には、その他の調整もあります)。
国内トップアップ課税額は、その国・地域に導入されている国内トップアップ税制度(GloBEルールに相当する一定の制度)による課税額で、QDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-Up Tax)とも呼ばれます。
この計算結果が、トップアップ課税の対象となる金額(トップアップ税額)ということになります。
(4) トップアップ税額の配分
最後に、計算されたトップアップ税額は、GloBE所得の割合で、各構成事業体に配分されます。
つまり、その国・地域に所在する全構成事業体のGloBE所得の合計額に占める各構成事業体のGloBE所得の割合を計算するということです。
このようにトップアップ税額が計算され、最終的にはIIRを通じた課税が行われることになります。
2. グループ国際最低課税額の計算
GloBEルールの話が長くなりましたが、大綱でも、基本的な考え方は同じです(たぶん)。
上記のトップアップ税額の計算に対応するのが、「グループ国際最低課税額」の計算で(たぶん)、これは「構成会社等に係るグループ国際最低課税額」と「共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額」とを合計した金額です。
ここでは、構成会社等に係るグループ国際最低課税額についてのみ書きます(共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額のほうも基本的に計算は同じです)。
3. 構成会社等に係るグループ国際最低課税額の計算
大綱では、構成会社等に係るグループ国際最低課税額の計算については、以下の3つの場合分けがされています(その区分に応じ、それぞれの一定の金額の合計額)。
(2) 構成会社等の所在地国における国別実効税率が基準税率以上であり、かつ、その所在地国に係る国別グループ純所得の金額がある場合
(3) 構成会社等の所在地国に係る国別グループ純所得の金額がない場合
4. 国別実効税率<15%&国別グループ純所得の金額ありのケース
上記(1)がメインのケースなので、それだけ以下にまとめます((2)と(3)はとりあえず割愛します)。
まず整理すると、上記(1)のケースは、以下のような状況です。
・その所在地国に係る国別グループ純所得の金額がある
この場合、構成会社等に係るグループ国際最低課税額は、以下のように計算されます。
(+) ロ その所在地国に係る再計算国別国際最低課税額
(+) ハ その所在地国に係る未分配所得国際最低課税額
(-) ニ その所在地国に係る自国内国際最低課税額に係る税の額
イとニを中心に、以下でちょっとだけ見ます。
イ 当期国別国際最低課税額
大綱では、上記イの「当期国別国際最低課税額」は、「国別グループ純所得の金額」から「実質ベースの所得除外額」を控除した残額に、「基準税率」から「その所在地国における国別実効税率」を控除した割合を乗じて計算した金額とされています。
算式でいうと、以下のような感じで、イメージは「超過利益×トップアップ税率」だと思います。
=(国別グループ純所得の金額-実質ベースの所得除外額)×(基準税率-国別実効税率)
基準税率は15%です。国別実効税率と国別グループ純所得の金額については、こちらとこちらをご参照ください。
実質ベースの所得除外額については、GloBEルールのカーブアウト額(Substance-based Income Exclusion)に対応するもので(たぶん)、その所在地国を所在地国とする全ての構成会社等に係る以下の金額の合計額とされています。
・有形固定資産その他の一定の資産の額の5%に相当する金額
ただし、上記の「5%」の割合については、それぞれ経過措置があります。
ロ 再計算国別国際最低課税額
大綱では、上記ロの「再計算国別国際最低課税額」は、過去対象会計年度における当期国別国際最低課税額につき再計算を行うことが求められる場合において、当初の当期国別国際最低課税額がその過去対象会計年度終了の日後に生じた一定の事情を勘案して再計算を行った当期国別国際最低課税額に満たないときのその満たない金額とされています(詳細は割愛します)。
ハ 未分配所得国際最低課税額
大綱では、上記ハの「未分配所得国際最低課税額」は、課税分配法を適用した一定の構成会社等(各種投資会社等)について、個別計算所得金額のうち他の構成会社等に分配されなかった部分の金額に基準税率を乗じて計算した金額とされています(詳細は割愛します)。
ニ 自国内国際最低課税額に係る税の額
上記ニの自国内国際最低課税額に係る税は、GloBEルールの国内トップアップ課税額というか、QDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-Up Tax)に対応するものです(たぶん)。
大綱では、自国内国際最低課税額に係る税は、以下のような税などとされています。
・その国または地域を所在地国とする特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等に対して課される税で、
・その国または地域における国別実効税率に相当する割合が基準税率に満たない場合のその満たない部分の割合その他の事情を勘案して計算される金額を課税標準とするもの
構成会社等に係るグループ国際最低課税額の計算が完了
ここまでで、「構成会社等に係るグループ国際最低課税額」が計算できたことになり(上記(1)のケースの分だけですが)、「共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額」を無視すれば、グループ国際最低課税額も計算できたことになります。
GloBEルールでいえば、これがトップアップ税額です(たぶん)。
5. 会社等別国際最低課税額の計算
GloBEルールでは、トップアップ税額は、GloBE所得の割合で、各構成事業体に配分されます。
大綱では、「会社等別国際最低課税額」という表現が使われていますが、計算は同じような感じです。
すなわち、会社等別国際最低課税額は、(A)に(B)を乗じて計算した金額とされています。
(B) 「その構成会社等の個別計算所得金額」が「その所在地国を所在地国とする全ての構成会社等の個別計算所得金額の合計額」のうちに占める割合等
GloBEルールの言い方でいうと、(B)は、その国・地域に所在する全構成事業体のGloBE所得の合計額に占める各構成事業体のGloBE所得の割合ということです。
6. 国際最低課税額(=課税標準)の計算
最後に、各構成会社等の持分割合を乗じて、課税標準である国際最低課税額を計算します。
「国際最低課税額」は、構成会社等である内国法人が属する特定多国籍企業グループ等の「グループ国際最低課税額」のうち、その特定多国籍企業グループ等に属する他の構成会社等(日本以外)またはその特定多国籍企業グループ等に係る共同支配会社等(日本以外)に配賦される「会社等別国際最低課税額」に対して、内国法人の所有持分等を勘案して計算した帰属割合を乗じて計算した金額の合計額とされています。
念のため、これは日本語です。
具体的には、「国際最低課税額」は、内国法人が所有持分を有する次に掲げる構成会社等(恒久的施設等を除く)の区分に応じ、それぞれ以下に定めるところにより計算した金額を合計した金額とされています。
→その構成会社等のその対象会計年度に係る会社等別国際最低課税額に帰属割合を乗じて計算した金額
(2) その内国法人がその所有持分を他の構成会社等を通じて間接に有する構成会社等で、当該他の構成会社等(要件あり)がその構成会社等のその対象会計年度に係る国際最低課税額等を有するもの
→「その構成会社等のその対象会計年度に係る会社等別国際最低課税額に帰属割合を乗じて計算した金額」から「その計算した金額のうち当該他の構成会社等に帰せられる部分の金額として計算した金額」を控除した残額
それほど違和感のある内容ではないので、だいたいこんなもんだと思います(←10分の制限時間をオーバーして焦ってる)。
今回はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。