オススメの書籍紹介:『実践 不正リスク対応ハンドブック』
このブログでは、不定期でオススメの本をご紹介しています。
読書の秋ということで、今日は「読むと明るい気持ちになる本」を選びました。
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今回は『実践 不正リスク対応ハンドブック』です
『実践 不正リスク対応ハンドブック: 内部統制の強化、不正会計の予防・発見・事後対応』(EY新日本有限責任監査法人 編)という本です。
知っておくべき内容が詰まっている
この本、不正リスク対応が必要な部署の方々に求められる知識が詰まっています。
400ページ弱なのですが、流し読みでも30分以上かかりました。それくらい情報がぎゅうぎゅうに詰まっている感じです。
読んでいると息苦しくなるほど、各ページもぎゅうぎゅうに詰まっています(笑)
最初に書いておくと、私が関心を持ったのは、この本のちょっと特殊な分野です(以下で書きます)。ただ、この本の全体についていえば、特に「第3章 代表的な不正会計の手口」・「第4章 不正会計を発見する」・「第5章 不正会計を防ぐ」などは、オーソドックスな内容だと思います。また、それぞれチェックリスト的なものもあり、どれもぎゅうぎゅうに詰まっています(笑)
かつ、「第7章 不正発覚後の対応実務」にまで触れていて、かなり広い範囲をカバーしてくれています。
なので、内容の濃さを考えると、読むのに時間がかかって当然だと思います。
海外子会社の不正会計
私がこの本を読んだのは、第6章に「海外子会社の不正会計」という内容があったからです。
この本が出る2か月前くらいに、自分が書いた『これだけは押さえておこう 海外子会社管理の会計・税務・財務ケース50』という本が出て、そこで海外子会社の不正にも触れたので(全ケースはこちら)、「こっちの本にはどんなことが書いてあるのかな」という興味本位です。
この本(『実践 不正リスク対応ハンドブック』)は「海外子会社」というよりは「中国子会社」のことが書いてありましたが、不正事例に関するフィクション(?)があって、それが秀逸です。
例えば、「従業員不正」の「(エピソード2)遅刻をごまかす」とか、スケールが小さくていい感じでした。あと、「(エピソード5)いつのまにか部屋が汚い」とか、監査法人のパートナーは他人のことを言えないような気もします(笑) もちろん、実際にはその裏側に重要な問題が隠れているわけで、「うん、うん」と頷きながら読みました。
ただ、Big4らしく、章の後半のほうは、「グローバル・グループ・ガバナンス」や「グループ・ワイド・コントロール」などのカッコいい感じの仕上がりになっています。「遅刻をごまかす」・「いつのまにか部屋が汚い」からの「グローバル・グループ・ガバナンス」・「グループ・ワイド・コントロール」。こうやって並べてみると、さすがの落差としか言いようがありません。
なお、1つだけ気になったのは、group-wide controlであれば、「グループ」と「ワイド」の間に「・」は要らないのではないかということです(どうでもいい)。
DXの進展による内部統制への影響
少し真面目な話をすると、特に「読んでよかったな」と思えるのが、「第2章 DX(Digital Transformation)の進展による内部統制への影響」です。
これは「最近(国内でも海外でも)よく聞くなあ」というテーマが詰まっています。ここもぎゅうぎゅうに。
例えば、スキャナ保存制度の不正リスクなどは、個人的にすごく勉強になりました。「スキャナ保存のイメージ文書における偽造」という項では、「経費精算のペーパレス化」というテーマが挙げられていて、「同じ書面の領収書を半年後に再度PDF化」とか「PDF化後にPDFの内容を改竄」とか、想定しておいたほうがよい手口が色々と書いてありました。また、それに対応する「内部統制の改善案」もポイントが挙げられているので、実務上の参考になるところが多いのではないかと思います。
結局、不正リスク対応では、「こういう不正が起こり得る」という想定が何よりも大事だと思うので、そのような観点からは、この章をざっと読むだけでも十分に価値があると思います。
ということで、不正リスク対応が必要な部署の方々にはオススメです。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。