セグメント情報:報告セグメントの決定方法
引き続きセグメント情報のことを書きます。
今回は、報告セグメントの決定方法について。
Table of Contents
1. 報告セグメントの決定方法
セグメント情報の開示の前段階として、まずは報告セグメントを決定する必要があります。
ここで、報告セグメントとは、文字どおり報告すべきセグメントですが、その決定に際しては、以下の手順を踏みます。
2. 集約基準に基づいて事業セグメントを集約する(必要に応じて)
3. 量的基準に基づいて開示すべき報告セグメントを絞り込む
以下、順番に見ていきます。
2. 事業セグメントの識別
最初の手順は事業セグメントの識別ですが、ここでいう「事業セグメント」とは、企業の構成単位で、以下の要件のすべてに該当するものをいいます。
(2) 企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、また、その業績を評価するために、その経営成績を定期的に検討するもの
(3) 分離された財務情報を入手できるもの
企業の本社等で、企業を構成する一部であっても収益を稼得していない(または付随的な収益を稼得するに過ぎない)構成単位は、事業セグメント(またはその一部)には該当しません。
ただ、この事業セグメントが必ずしもそのまま報告セグメントになるわけではありません。細分化され過ぎた構成単位の情報は、財務諸表利用者にとって有用ではなく、かつ企業が開示するにあたって負担になるからです。そこで、以下のとおり、報告セグメントを決定するための集約基準及び量的基準を検討します。
3. 集約基準に基づく事業セグメントの集約
まずは、集約基準について。
(1) 集約基準とは
複数の事業セグメントが以下の要件のすべてを満たす場合、1つの事業セグメントに集約可能です。
(2) 当該事業セグメントの経済的特徴が概ね類似していること
(3) 当該事業セグメントの次のすべての要素が概ね類似していること
① 製品及びサービスの内容
② 製品の製造方法または製造過程、サービスの提供方法
③ 製品及びサービスを販売する市場または顧客の種類
④ 製品及びサービスの販売方法
⑤ 銀行、保険、公益事業等のような業種に特有の規制環境
上記(1)の「基本原則」というのは、財務諸表利用者に対して、企業の過去の業績の理解や将来のキャッシュ・フローの予測に資するような適切な情報を提供する、みたいな漠然とした話です。
また、上記(2)について、「経済的特徴が概ね類似している」というためには、それらの事業セグメントが長期的に近似した業績の動向を示すことが見込まれている必要があります。適用指針では、「長期的な売上総利益率(平均値)が近似することが見込まれる場合」が例示されています。
(2) どこまで集約すべきか
以下の量的基準の判断も含めてですが、報告すべきセグメントの数についての制限(限度)はないものの、あまり細分化し過ぎるのは好ましくありません。
具体的には、適用指針では、セグメントの数が10を超える場合、その区分方法が財務諸表利用者に適切な情報を提供するものであるかについて、慎重な判断が必要とされています。
4. 量的基準に基づく報告セグメントの決定
最後に量的基準について。
(1) 量的基準とは
以下の量的基準のいずれかを満たす事業セグメントについては、報告セグメントとして開示する必要があります。
(2) 利益または損失の絶対値が、以下のいずれか大きい額の10%以上であること
①利益の生じているすべての事業セグメントの利益の合計額
②損失の生じているすべての事業セグメントの損失の合計額の絶対値
(3) 資産が、すべての事業セグメントの資産の合計額の10%以上であること
(注)事業セグメント間の内部売上高または振替高を含む
もちろん、企業が、量的基準のいずれにも満たない事業セグメントを、報告セグメントとして開示するのは自由です。
また、報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が連結損益計算書または個別損益計算書(以下「損益計算書」)の売上高の75%未満である場合には、損益計算書の売上高の75%以上が報告セグメントに含まれるまで、報告セグメントとする事業セグメントを追加して識別する必要があります。いわゆる「その他」セグメントのお話です。
(2) 継続性の問題
ちなみに、量的基準を適用して報告セグメントを決定するにあたっては、相当期間にわたりその継続性が維持されるように配慮する必要があります。
例えば、前年度において報告セグメントとされた事業セグメントが当年度においては量的基準を下回るとしても、引き続き重要であると判断される場合には、当該セグメントに関する情報を区分する(継続的に開示する)ことになります。
なお、この判断にあたっては、仮に当該事業セグメントが区分されない場合、財務諸表利用者が、企業の過去の業績を理解し、将来のキャッシュ・フローの予測を適切に評価する上で、重要な影響を及ぼすか否か、という観点からの検討が必要とされています。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。