消費税のインボイス制度は何のための制度なのか(制度の目的)
今週の残りと来週は、消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)のことを書きます。
Table of Contents
1. 企業研修で頂くご質問
企業研修では、質疑応答で色んなご質問を頂きます。
経理部門や購買部門の方々から頂くご質問は、常識的で答えやすいものが多いです。
一方、答えに窮するのは、制度にほぼ興味がない方々(失礼)の素朴な疑問のほうです。例えば、営業部門や… いや、営業部門の方々からのご質問ですね。
2. インボイス制度の目的(建前は明確)
ということで、まずは究極の質問、「消費税のインボイス制度は何のための制度なのか」という点について。
一応の(建前上の)答えは、複数税率制度への対応です。
日本の消費税では、標準税率10%のほかに軽減税率の8%もあるので、売手側と仕入側で適用税率の認識を一致させる必要があります。
そのために、インボイス制度では、売手側に必要な情報を記載したインボイスの発行を義務付けるとともに、買手側ではそのインボイスの保存を仕入税額控除の適用要件にしています(併せて、適正なインボイスを発行できる事業者を見分けるための仕組みも構築)。
財務省による税制改正の解説(インボイス制度の導入時)だと、だいたいこんな感じでしょうか。
3. インボイス制度の目的(本音は不明)
でも、研修でこういうご回答をしても、誰も納得しなくて、「はあ」という感じになります。
その反応は多分正しくて、「軽減税率対象の切り分けがそんなに難しいか」とか「10%と8%の差がそんなに重要か」などと考えると、私にもよくわかりません。
ただ、政府が将来的に消費税の税率を上げることを考えているとしたら、その布石としてインボイス制度は導入しておいたほうがいいんでしょうね。例えば、「標準税率20%、食料品などはゼロ税率」みたいな未来を想像すれば、売手側と買手側の認識を揃えることは、より重要になると思うので。
それ以外では、騒ぎになっている免税事業者の益税問題(詳細はこちら)への対処という側面もあるのかもしれません。ただ、益税の規模は数千億円と言われており、これがどの程度重視されているのかはわかりません。消費税の税収は20兆円を超えるレベルなわけで、たかだか数千億円のために、これだけ反感を買う改正を行うのかなという疑問はあります。未だに小規模事業者の負担軽減が検討されているようですし。
まあ、私は何も知らないので、研修での雑談レベルのお話ということで。
今日はここまでです。
では、では。
↓インボイス制度に関するオススメの書籍です(私の本ではないです。制度開始後の6訂版です。「決定版」らしいです。3訂版の紹介記事はこちら)。
6訂版 Q&Aでよくわかる消費税インボイス対応要点ナビ【決定版】(Amazon)
↓インボイス制度をカバーした『海外取引の経理実務 ケース50』の3訂版です(私の本です。紹介記事はこちら)。
これだけは押さえておこう 海外取引の経理実務 ケース50〈第3版〉(Amazon)
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。