税引前の別表四と税引後の別表五(一):その関係と検算式(法人税申告書)
今週は、私が税理士法人に転籍した頃のメモから、面白そうなテーマを抜き出して、公認会計士の方々向けに書いています(メモの内容はこちら)。
今回は、以下のメモについて。
Table of Contents
1. 別表四は損益計算書で別表五(一)は貸借対照表か
法人税申告書について、「別表四は税務上の損益計算書で、別表五(一)は税務上の貸借対照表」という言い方をよくします。
会計士の人は、まずはここに引っ掛かるんじゃないかと思います。
というのも、別表四とか別表五(一)は、単なる調整表に過ぎないからです。会計のほうの損益計算書とか貸借対照表のように内訳が分かるものではありません。
具体的には、別表四は「当期利益→所得金額」の調整表、別表五(一)は「会計上の純資産→税務上の純資産」の調整表ということです。
2. 別表四は損益計算書ではなく別表五(一)も貸借対照表ではない
例えば、別表四に税務上の損益内訳の記載はなく、別表五(一)に税務上の資産・負債の総額の記載はありません。
つまり、会計のほうの損益計算書や貸借対照表とセットで見ないと、税務上の損益内訳や資産・負債の総額はわからないということです。
個人的には、そんなものを損益計算書とか貸借対照表と言われてもなあという感じでした。
申告書を書いていない会計士の方々も、別表五(一)のほうは、税効果の計算プロセスから、何となくイメージして頂けるんじゃないでしょうか。
3. 別表四の所得金額と別表五(一)の利益積立金額の連動
それはそれとして、今回の主なテーマは、フロー数値とストック数値の連動性のお話です。
会計のほうで当期純利益が純資産(のうち利益剰余金)に連動するように、税務のほうでも別表四の所得金額が別表五(一)の純資産(のうち利益積立金額)に連動します。
(1) 検算式
具体的には、以下の検算式のお話です。
(2) 別表四「所得金額」「②留保」(=当期留保所得)
(3) 別表五(一)「未納法人税等」「③増」
(4) 別表五(一)「④差引翌期首現在利益積立金額」(=期末)
会計でいえば、期首の利益剰余金に「当期純利益-配当」を足せば、だいたい期末の利益剰余金になるので、それを税務に当てはめると、上式のうち「(1)+(2)=(4)」の部分は簡単に理解できると思います。
期首の利益積立金があって、それに当期の留保所得を足せば、期末の利益積立金になるということです。
(2) なぜ別表五(一)「未納法人税等」「③増」を引くのか
でも、「-(3)」って何だ?って思いますよね。
ここで、やっと「別表四は税引前で別表五(一)は税引後」というメモの内容が登場します。
念のためですが、会計上の当期純利益は税引後の数値で、会計上の純資産(のうち利益剰余金)も当然税引後(の利益が蓄積したもの)です。
この点は税務上の純資産も同じですが、問題は税務上の所得金額で、これだけは税引前の数値です。税率を乗じて税金を計算する対象なので、当たり前といえば、当たり前なのですが。
ということは、別表四で計算された、(2)の当期留保所得は、ある意味税引前の数値ということになります。
一方で、別表五(一)で翌期に繰り越される(4)の差引翌期首現在利益積立金額は、税引後の数値です。そうすると、(2)とはベースが異なるので、(2)をそのまま足すわけにはいかなくなります。つまり、(2)に対応する税金を引いて、税引後に修正したうえで、利益積立金にプラスすることになります。この税金部分が(3)の未納法人税等の増ですね。
(3) 検算式を書き直すと
つまり、さっぱりと書くと、以下のようなイメージです。
(2) 税引前当期留保所得
(3) 当期税金
(4) 期末利益積立金額(税引後)
これで、「(1)+(2)-(3)=(4)」でもそんなに違和感がないんじゃないでしょうか。
要は(2)が税引前だから、(3)を引いて、税引後数値に修正しないといけないということですね。
こういう疑問を持つのが自然なことかはわかりませんが、私は「別表四は税引前で別表五(一)は税引後」ということを教えてもらって初めて、別表四と別表五(一)のつながりがちゃんと理解できました。
改めて考えても、私がいた税理士法人はいいところだったなあと思います。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。