電子帳簿保存法(スキャナ保存):「各事務の処理に関する規程」の記載例
今日も電子帳簿保存法におけるスキャナ保存制度のお話です。
引き続き、重要書類のスキャナ保存の要件の関係ということで、今回のテーマは、業務処理サイクル後速やかに入力する場合に必要になる、「各事務の処理に関する規程」です。
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0. この記事のポイント
1. 入力期間の制限
重要書類のスキャナ保存に係る要件の1つに、入力期間の制限があります(以下の記事でまとめました)。
選択肢は2つで、国税関係書類の作成または受領後、速やかに入力するか(おおむね7営業日以内)、業務処理サイクル後、速やかに入力するか(最長で2か月とおおむね7営業日以内)のどちらかです。
このうち、後者(業務処理サイクル後、速やかに入力するパターン)を採用するためには、国税関係書類の作成または受領から入力までの「各事務の処理に関する規程」が必要になります。
2. 「各事務の処理に関する規程」とは
この「各事務の処理に関する規程」とは、端的には、作業責任者、処理基準及び判断基準等を含めた業務サイクルにおけるワークフローなどの企業の方針を定めたものです。
国税庁の電子帳簿保存法Q&A(一問一答)【スキャナ保存関係】に例が示されており、こだわりがなければ、業務処理サイクルなどの実態を各社に合わせさえすれば、ほとんどそのまま使えると思います。
なので、あまり深く考える必要はないかもしれませんが、以下で少しだけまとめます。
業務サイクルに応じた入力事務を行うことにより、改竄等の誘因を制限すること(真実性の確保)
規程の主な内容:
書類の受領または作成を始めとする企業のワークフローに沿ったスキャニング、タイムスタンプの付与の時期等について規定し、その規程に沿った入力事務の処理を行う責任者を規定することにより責任の所在を明らかにする
ちなみに、こういうの、私はすごく苦手です。
なぜこんなに抵抗感があるのかと思ったのですが、何となくJ-SOXを彷彿とさせるんですよね。お仕事としてやらないといけないからやりますが、できればやりたくない…
3. 「各事務の処理に関する規程」の記載例
「各事務の処理に関する規程」の記載例については、上記のとおり、国税庁のQ&A(一問一答)に記載例があるので、以下に貼っておきますが、Word版は以下のサイトからダウンロードできます。
せっかくなので、章ごとに見ていって、ちょっとだけコメントします。
第1章 総則
第1章 総則
(目的)
第1条 この規程は、○○における紙による国税関係書類について、××社製●●システム(以下「本システム」という。)を活用して、スキャナによる電子化を安全かつ合理的に図るための事項を定め、適正に利用・保存することを目的とする。
(定義)
第2条 この規程において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 電子化文書 紙文書を電子化した文書をいう。
二 管理責任者 本システムを円滑に運用するための責任者をいう。
三 真実性を確保するための機能 電子化文書の故意又は過失による虚偽入力、書換え、消去及び混同を未然に防止し、かつ、改ざん等の事実の有無が検証できる機能をいう。
四 機密性を確保するための機能 電子化文書へのアクセスを制限すること、アクセス履歴を記録すること等により、アクセスを許されない者からの電子化文書へのアクセスを防止し、電子化文書の盗難、漏えい、盗み見等を未然に防止する形態で保存・管理される機能をいう。
五 見読性を確保するための機能 電子化文書の内容を必要に応じ電子計算機その他の機器を用いて検索し、画面又は書面に直ちに出力できるよう措置される機能をいう。
(運用体制)
第3条 ○○における本システムの運用に当たっては、管理責任者及び作業担当者を置くものとし、事務分掌細則によりこれを定める。
2 管理責任者は、電子化文書を作成する作業担当者を管理し、電子化文書が法令等の定めに則って効率よく作成されることに責任を持つ。
3 管理責任者は、電子化文書の作成を外部委託する場合、外部委託業者が電子化文書作成に必要な法令等の知識と技能を持つことを確認し、これを条件に業務を委託することができる。
(利用者の責務)
第4条 本システムの利用者は以下の責務を負う。
一 自身のIDやパスワードを管理し、これを他人に利用させない。
二 本システムの情報の参照や入力(以下「アクセス」という。)に際して、IDやパスワードによって、本システムに利用者自身を認識させる。
三 与えられたアクセス権限を越えた操作を行わない。
四 参照した情報を目的外に利用しない。
五 顧客及び関係者のプライバシーを侵害しない。
第1章はほぼそのまま使えそうですね。
第2章 対象書類及び入力の時期
(対象書類)
第5条 ○○におけるスキャナにより電子化する書類は、次の各号に定めるところによる。
一 請求書
二 納品書
三 見積書(控)
四 注文書
2 前項第3号及び第4号に定める書類は、これらを併せて、以下「一般書類」という。
(入力の時期)
第6条 第5条各号に定める書類については、書類を取得後、次の時期に入力する。
一 請求書 速やか(おおむね7営業日以内)に入力
二 納品書 毎月末までに受領したものを、翌々月7日までに入力
三 見積書(控) 1月から6月までに発行したものは8月末までに、7月から12月までに発行したものは翌年2月末までに入力
四 注文書 1月から6月までに受領したものは8月末までに、7月から12月までに受領したものは翌年2月末までに入力
スキャナ保存は国税関係書類の種類ごとに適用でき、一部の国税関係書類のみをスキャナ保存により保存することも認められるので(詳細はこちら)、第2章では対象書類を明確にしている感じだと思います。
入力制限も対象書類ごとに変えてるみたいですね。
第3章 機能要件
(管理機能等)
第7条 本システムによる電子化文書の作成及び管理機能は、次に定めるところによる。
一 データフォーマット 電子化文書のデータフォーマットは、BMP、TIFF、PDF又はJPEGとする。
二 階調性の確保 画像の階調性を損なうような画像補正は行わない。
三 画像品質の確保 電子化文書の画像は、第10条で定めるところにより確認できること。
四 両面スキャン 電子化文書の作成に当たっては、原則として、両面をスキャンする。ただし、裏面に記載のないものなどについては、この限りではない。
2 真実性を確保するための機能は、次に定めるところによる。
一 タイムスタンプ ●●株式会社のタイムスタンプサービスを利用し、電子化文書には第6条各号に定める時期までにタイムスタンプを付与し、当該電子化文書の作成時期の証明及び改ざん等の事実の有無を検証できるようにする。なお、課税期間中の任意の期間を指定して当該期間内に付与したタイムスタンプについて、一括して検証できるようにする。
二 解像度等の情報の保存 電子化文書作成時の解像度、階調及び元の紙文書の大きさに関する情報を保存する。ただし、一般書類については、紙文書の大きさに関する情報を保存する必要はない。
三 ヴァージョン管理 記録した電子化文書のヴァージョン管理を行うに当たり、当初に記録した電子化文書を第1版とし、その後に訂正又は削除が行われても第1版の内容を保持する。
3 機密性を確保するための機能は、次に定めるところによる。
一 アクセス管理 情報の利用範囲、更新履歴、機密度等に応じた管理区分を設定するとともに、情報にアクセスしようとする者を識別し認証できること。
二 不正アクセスの排除 不正なアクセスを排除できること。
三 利用ログ管理 本システムの管理責任者は、ログの情報等を利用して不正なアクセスの防止をすることとする。
4 見読性を確保するための機能は、次に定めるところによる。
一 検索機能 記録されている電子化文書に検索のために必要な情報(検索項目)を付加し、かつ、その検索項目を活用して該当する電子化文書を抽出できること。
二 検索項目設定機能 検索項目に、ⅰ)取引日付、ⅱ)取引金額、ⅲ)取引先名称が設定でき、日付又は金額の項目は範囲指定を可能とし、任意の2項目以上の検索項目を組み合わせて検索できること。
三 帳簿との関連性を確保する機能 電子化文書には、管理用通番として伝票番号を付し、帳簿に記載される内容と関連付けを行う。
四 整然とした形式で速やかに紙出力する機能 記録されている電子化文書及びログ等の管理情報をデータフォーマットの種類にかかわらずディスプレイやプリンタに整然とした形式で国税関係書類と同程度の明瞭さを確保しつつ速やかに出力することができること。
五 4ポイント文字が認識できる機能 本システムはJISX6933又はISO12653-3テストチャートの4ポイント文字が認識でき、電子化文書を拡大縮小表示できること。
第3章には、タイムスタンプ使う旨の記述があります(第7条第2項一)。
第4章 機器の管理と運用
(機器の管理)
第8条 本システムの機器の管理及び運用に関する基準を遵守する。
2 電子化文書の情報が十分に保護されるように記録媒体の二重化、バックアップの採取等を行う。また、品質劣化が予想される記録媒体については定期的に記録媒体の移し替え等を行う。
3 外部ネットワーク接続により、不正アクセスによる被害やウィルスによる被害が発生しないように対策を施す。
(入力装置の設定)
第9条 入力装置の設定は、次に定めるところによる。ただし、一般書類に係る階調はグレースケールとしてもこれを認める。
一 解像度 200dpi以上とする。
二 階調 電子化文書は赤、緑、青の各色256階調(24ビット/ピクセル)とする。
(出力装置の設定)
第10条 出力装置の設定は、次の各号に定めるところによる。ただし、一般書類については、第2号及び第3号の階調及び印刷装置をグレースケール以上の能力を持つ表示装置及びプリントできる印刷装置としてもこれを認める。
一 表示装置のサイズ 14インチ以上の表示装置とする。
二 表示装置の階調 赤、緑、青の各色256階調(24ビット/ピクセル)以上の能力を持つ表示装置とする。
三 印刷装置の解像度及び階調 印刷装置はカラープリントできるものとする。
第4章はどうでもいい感じです。
第5章 スキャニングの手順等
(書類の受領)
第11条 取引先から請求書を受領した営業責任者は、納品書及び検収報告書との照合を行い内容に誤りがないことを確認した後に、請求書を経理責任者に引き継ぐ。
2 取引先から納品書を受領した営業責任者は、注文書(控)及び納品された現物を確認した後に、納品書を経理責任者に引き継ぐ。
3 見積書を作成した営業責任者は、その控えを経理責任者に引き継ぐ。
4 取引先から注文書を受領した営業責任者は、出荷指示書を作成し、商品を出荷した後に、注文書及び出荷指示書を経理責任者へ引き継ぐ。
(仕訳伝票等の整理)
第12条 経理責任者は、回付された請求書に基づき決済手続、仕訳伝票の整理、買掛帳の整理等を行った後に、作業担当者が請求書をスキャナ用ボックスに保管する。
2 作業担当者は、回付された納品書、見積書、注文書及び出荷指示書をそれぞれごとに分類し、スキャナ用ボックスに保管する。
(スキャニングの準備)
第13条 作業担当者は、次の期日までにホチキス留めをはずし、折りたたみを広げスキャニングの準備を行う。
一 請求書 請求書受領後、5日以内
二 納品書 毎月末
三 見積書(控え) 1月から6月までに発行したものは7月末、7月から12月までに発行したものは翌年1月末
四 注文書 1月から6月までに受領したものは7月末、7月から12月までに受領したものは翌年1月末
2 作業担当者は、スキャニングする書類について、前項各号ごとに枚数及び対象年月を確認し、これを入力区分票に記載する。
(スキャニング処理)
第14条 作業担当者は、本システムを活用し、スキャニング処理を実施する。なお、帳票ごとに1ファイルにするとともに、裏面のスキャナ漏れがないよう留意する。
2 作業担当者は、スキャン枚数及びスキャン画像を目視にて確認する。
3 作業担当者は、正確にスキャニングされていることを確認した後に、画像(電子化文書)及びCSV(検索項目)をサーバに転送し、管理責任者にこれを引き継ぐ。
4 管理責任者は電子化文書の確認を速やかに行う。
5 管理責任者は、第7条第2項第1号に定めるタイムスタンプを付与し、本システムに登録する。
(電子化文書の保存)
第15条 本システムにより電子化されたデータは、国税に関する法律の規定により保存しなければならないとされている期間まで保存する。
第5章だけは、ちゃんと決めたうえで、真面目に書いたほうがいいと思います。
内部統制との絡みもありそうなので(嫌なのでコメントしませんが)。
第6章 原本の廃棄等
(原本の廃棄)
第16条 作業担当者は、スキャニング処理を了した原本について、管理責任者のチェックが完了するまでの間、一時保管する。
2 この管理責任者のチェックが完了した原本については、作業担当者が文書管理規程に基づき、これを廃棄し、その旨を管理責任者に連絡する。
3 管理責任者は、廃棄結果を記録する。
(電子化文書の消去)
第17条 作業担当者は、保存期間が満了した電子化文書の一覧を作成し、管理責任者に連絡する。
2 管理責任者は、保存期間が満了した電子化文書の一覧を基に、該当するデータの消去を行い、消去結果を記録する。
第6章は原本の廃棄についてですが、監査を受けている会社の場合、念のため監査法人に相談したほうがいいと思います。あ、あと内部監査部門とかにも。
附則
(施行)
第18条 この規程は、令和○年○月○日から施行する。
今日はここまでです。
では、では。
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佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。