オススメの書籍紹介:『経理の本分』
「オススメの本を教えてください」というリクエストを頂いたことがきっかけで、このブログで書籍をご紹介していくことになりました。
Table of Contents
今回は『経理の本分』です
今回は3冊目ということで、『「経理」の本分』(武田 雄治(さん)著。中央経済社)という本です。
1冊目の『きんぎょが にげた』、じゃなかった、『国際取引と海外進出の税務』と同様、「自分が関係するジャンルで、自分には絶対に書けない本」という視点で、この本を選びました。
最初にお断りしておきますが、これは書評(の類いのもの)ではありません。単純な感想文です。
経理部の位置付けについて
この本はタイトルのとおり、「経理の本分」について書かれています(そうじゃないと困る)。
まず、経理部の位置付けについて、「経営者や事業部門を支援するサービス部門」であるべきであり、その進化の最終形は、「情報サービス業」であるとされています。
私なんかは企業の外から見ているだけですが、実際にこれが出来ている経理部門の方々と一緒にお仕事をさせて頂くと、めちゃくちゃスムーズです。
経営の意思決定を支える機能があるところは、それだけ信頼があり、逆に他部門からも情報を集めやすかったりするのかもしれません。もちろん、現実には、リソースなど様々な制約があるので、なかなか難しかったりするのだとは思いますが。
うなずく箇所が多い
この本は、私のような外部のアドバイザーの視点でも、「うん、うん」とうなずく箇所が山ほどあります。そのうちのほんの少しだけなのですが、(1)経理資料に関する部分と(2)分析業務に関する部分を以下でご紹介します。
(1) 経理資料について
まず、経理資料についてですが、この本では、上場企業の経理部には、ムダな資料が多過ぎると指摘されています。また、「無駄なアウトプット資料」の例としては、「第三者が見てわからない資料」が挙げられており、その意味合いとして「会計監査などに使えない」という点も説明されています。
これ、外から見ると、本当にそうなんですよね。監査法人に勤めてたとき、特に入社間もない頃は(正しくは「入所」ですが人聞きが悪いので)、わざと読みづらい資料を出されているのかなと思っていました。でも、監査法人から出て(「出所」)、会社側の立場になっても、相変わらずだったので、そのときに初めて「ああ、こういうものなんだな」とわかりました。
監査法人にとってわかりやすい資料というのは、たぶん外部のアドバイザーにもわかりやすいと思います。税務申告をされる税理士さんにとっても同じはずなので、資料を工夫するのは、外部が関係する仕事の効率化のためにも超有効だと思います。
経理資料に関する指摘をもう1つ。開示業務の原則のところで、「開示から逆算して考えていないため、上流(勘定科目明細等)と下流(開示基礎資料)が分断されている」という問題が指摘されています。開示物とリンクしているべき、という点は本当にその通りだと思いますし、最終成果物の作成から「逆算」した日常業務というのは、きっと決算早期化にも生きてくるんだろうなと思います。
なお、「ダメなアウトプット資料」と「よいアウトプット資料」の例示があるのですが(p.55)、前者の例として「センスのない資料」、後者の例として「センスがある資料」が挙げられています。フォント・文字の大きさ・罫線の使い方等々の内容なのですが、この「センス」という括りで、バッサリいくまとめ方に、ちょっと笑いました。こんなこと口が裂けても言えない(笑)
(2) 分析業務について
もう1つ、分析業務の原則のところで、「財務分析というと、ROA、ROE、ROIC、自己資本比率といった「指標」を算出することだと思っている人がいる」と指摘されています。すみません、それは私です。
若干のショックはさておき、分析業務の原則で「性悪説的に見ること」が挙げられていますが、これも重要なポイントだと思います。この点、自社の資料もそうですが、子会社の数字を見るときなんかも同じで、海外子会社管理の局面では、よく同趣旨のことを言っています(ただし、私は結構「指標」を算出してますけどね)。
それと、分析業務の原則には「長期のトレンドを追うこと」が含まれています。そうなんだよなあ。これもほんと大事ですよね。たまに経理部門の方で、この「長期のトレンド」が頭に入っている方がいらっしゃいます。属人化はよくないと怒られそうですが、そういう方に現在の数字に至るまでの過去の経緯を語ってもらえると、やっぱり外部のアドバイザーとしても仕事はやりやすいです。もちろん、普段の業務でも、トレンドが把握できていれば、色々な気づきがあるんでしょうね。
絶対に真似できないポイント
こんな感じで、勉強になるポイントは枚挙にいとまがないですが、そもそもそういう内容がちゃんと言語化されてるのがすごいと思います。「何となく思っていること」をしっかり言葉で伝えられるという。
「哲学」がある
でも、それにも増して、この本が本当に素晴らしいのは、背景に「哲学」があるところではないでしょうか。この点が絶対に真似できないポイントです。
これは経理部門の方々の視点とは異なり、完全に外部目線のお話ですが、専門家の立場だと、やっぱり技術的なところから一歩踏み出すのは怖いです。だから、仮に「こっちのほうがいいんじゃないかな」と思っていたとしても、企業にとって「何が大事か」を聞かないと、価値判断はできません。
これに対して、一貫した「哲学」が示されているという意味で、この本はすごく潔いです。上記の「センスのない資料」という表現からもわかるとおり、万事バッサリいってます(笑)
なので、「類書はない」と言い切ってしまっていいと思います。
具体的に書けないのは…「経理部員の心得」
じゃあ、具体的には、ということで、一例を挙げると、第6章の「経理部員の心得」は、私には絶対書けない部分です。
なので、コメントも難しいのですが、そのうち、私にもちゃんと理解できて、かつ、共感もできるのは以下の2つです。
心得15:属人化は「悪」である
うん、うん。
心得5は、連結で取引高消去をやるのなら、グループ内の価格設定のポリシーは知っておいたほうがいいし、税務で子会社からの配当や利息の取扱いを考えるなら、そもそもの子会社の資本構成の決め方に関心を持ったほうがいい、ということだと思います。いずれもさらにフロントの部分はあると思いますが。
心得15もそうなんですよね。大企業の場合、必然的にローテーションがあるので、やっぱりある程度の情報は組織に残していってもらいたいなあと思うときがあります。もちろん、マニュアルなんかを一緒に作って、できるだけサポートはしますが、「これは以前の案件で●●事業部の○○さんと揉めて、こういうイレギュラーな処理になってますが、監査法人には以下のように説明してください」とか、マニュアルに書けないですし。
絶対に直視できないポイントも
ちなみに、「部下としての心得」もあるのですが、これはあまりに耳が痛いので、薄目で読みました。
私が部下という立場だったときに唯一出来ていたのが、「心得20:おかしいと思ったことは上司に直訴せよ」でした。
えー、(特に監査法人時代の)上司の皆さま、心よりお詫び申し上げます。
まだ若い方々は一度目を通されることをオススメします。
最後に
他にも色々と書きたいことはありますが、性格的に熱量少な目の私がこれだけ書くことが、「この本がいい本であること」の何よりの証拠だと思います。
決して「部下としての心得」のところでテンションがだだ下がりし、それ以上書くことを放棄したわけではありません。
じゃあ、今日はこのへんで。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。