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佐和周のブログ

移転価格税制

第4回 金銭の貸借取引における信用格付等の位置付け(移転価格税制)

引き続き「金融取引」シリーズです。

今回は金銭の貸借取引(親子ローン)における信用格付等の位置付けについて。

 

1. 信用格付等

改正後の移転価格事務運営要領では、取引の当事者に係る信用力の比較可能性を検討する際に、信用格付等を使えることが明記されました(改正前から普通に使ってはいましたが)。

そして、参考事例集でも、海外子会社と同じ信用格付(同程度の信用力)の法人が借り入れた金銭の貸借取引の利率の平均をベースに金利を設定している事例が追加されています(また今度書きます)。

ちなみに、ここでいう「信用格付等」とは、信用格付その他の信用状態の評価の結果を表す指標を意味するので、別に格付機関によって付与された信用格付には限定されません。

ただ、とりあえずは信用格付のことをメインに書きます。

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2. 付随的便益の考慮

信用格付等について検討する際に注意が必要なのは、付随的便益という概念です。

(1) 付随的便益とは

付随的便益とは、取引の当事者が企業グループに属している事実のみを理由とした付随的な便益をいい、事務運営指針では、この付随的便益自体に対価が発生するものではないとされています。

もう少し言うと、付随的便益は「借手が企業グループに属している事実のみを理由として、借手にその事実がなかったとした場合の信用格付等と比較して高い信用格付等が与えられる」ような状況を指します(日本語が難しいですが)。

(2) 付随的便益の例

例えば、海外子会社(国外関連者)が日本親会社(法人)のグループに属していることにより、海外子会社単独での借入れよりも低利での借入れが可能となっていれば、それが付随的便益です。

このような便益については、親子会社間の受動的な関係のみから得られたという意味で、付随的な便益に起因するものであり、上記のとおり、基本的に親子間で配分を行う必要はないこととされます(そもそも対価が発生するものではないため)。

言い換えると、信用格付等をベースに取引の当事者に係る信用力の比較可能性を判断する場合には、「当事者が企業グループに属していないとした場合の単独の信用格付等」ではなく、「付随的便益を加味した結果としての(つまり、相対的に引き上げられて高くなった)信用格付等」を基礎として判断します。

参考事例集の事例でいくと、例えば、以下のような状況で海外子会社(国外関連者)の信用力の比較可能性を判断する場合、信用格付Bを基に判断するのではなく、信用格付Aのほうを基に判断するということです。

  • 企業グループに属していないとした場合の単独の信用格付=信用格付B
  • 付随的便益を加味して引き上げられた信用格付=信用格付A
  • このあたりは、債務保証取引のほうにも関わってくるので、また別の機会に事例で確認したいと思います。

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    3. 格付機関による信用格付がない場合

    海外子会社については、格付機関による信用格付を取得していないケースも多いのではないかと思います。

    ただ、移転価格税制の文脈で、借手の信用力を評価する場合に用いる「信用格付」については、格付機関によって付与された信用格付だけに限定されません。

    例えば、公開の財務ツール等から、借手と同様の信用力を有する企業に付されるであろう信用格付を算定できる場合には、その信用格付を用いて独立企業間価格を算定できるケースがあります。

    コストをかけてツールを使い、子会社の財務情報を入力することで、移転価格税制以外では使わない信用格付を試算することに虚しさを覚えない人であれば、この方法も採用可能です。

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    4. 信用格付がない場合

    そんな感じなので、どういう格付であれ、海外子会社に(移転価格税制の文脈でいう)信用格付が存在しないケースも多いのではないかと思います。

    ただ、そういう場合でも、移転価格税制上は、借手の信用力を測る指標を勘案し、独立企業間価格の算定を行う必要があるという点は変わりません。なので、信用格付等の「等」の部分、言い換えると、「その他の信用状態の評価の結果を表す指標」を用いることになります。

    パブリック・コメントに対応する形で示された「国税庁の考え方」では、このような指標の例として、「信用力を測るために用いられる各種財務指標のうち、デフォルト事象との関連性が高く、事案の事実と状況に応じた最も適切な財務指標」が挙げられています。

    コスト・アプローチみたいな感じなんだと思いますが、結局は情報の入手にお金がかかるという…

    また、「国税庁の考え方」では、「格付機関が提供している事業体グループの位置付けから潜在的な発行体格付けを求める方法」についても、それが合理的かつ客観的な指標と認められる場合には、それでもOKとされています。

    あと、参考事例集では、国外関連取引における借手と貸手の信用力が大きく異ならないと認められるような場合には、貸手の信用格付等を用いて独立企業間価格を算定することができるケースがあるとされています。あんまり細かくは書きませんが、このあたりはよく検討したほうがよさそうです。

    なお、これらのケースでは、借手の信用力を評価するために用いられた指標の検証可能性を担保するためにも、その指標の導出過程等を文書化しておくことが望ましいとされています。

    今日はここまでです。

    では、では。

    ■移転価格税制に関するトピックの一覧はこちら

     

    この記事を書いたのは…
    佐和 周(公認会計士・税理士)
    現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら

     

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