償却された敷金の返還と原状回復費用の支出に係る会計処理(税効果も少し)
今日もちょっとだけ会計関係のお話です。
少し前にお仕事で取り扱った内容について、さらっと書きます。
Table of Contents
1. 敷金(差入保証金)の返還仕訳
今日は、オフィスから退去する際に敷金(差入保証金)の返還を受ける際の仕訳のお話です。
クライアントからご質問頂いた際は、「何で?」と思ったのですが、聞いてみて分かりました。
資産除去債務(とその税効果)が絡んでくるケースということで。
2. 敷金の返還の会計処理
まず、オフィスを賃借する際、敷金を差し入れていることは多いと思います。
この敷金は、契約期間満了時や退去時に返還される性質のものですが、返還時には原状回復費用が差し引かれる(残額のみが返還される)こともあります。もちろん、自社で原状回復費用を支出して、敷金は全額返還という形もあると思います。
敷金返還時の仕訳は、以下のとおりで、仮に原状回復費用が差し引かれれば、「修繕費」などの費用を計上して、その分だけ(入金を受ける)「現金及び預金」を減らせばいいだけです。
なので、原状回復費用に係る仮払消費税等の処理(例えば、敷金の残高からマイナスするなど)とそのタイミングさえ誤らなければ、間違えるタイプの仕訳ではないです。
ただ、実際にはもうちょっと考えるべきことがあります。
3. 原状回復費用と資産除去債務との関係
契約上、敷金の一部が返還されない場合、その部分については償却されます。
ただ、返還されるものであっても、資産除去債務の関係で敷金が償却されていることがあります。つまり、会計上の残高が債権としての残高と異なるということですね。
前提として、建物等の賃借契約においては、原状回復(内部造作等の除去など)で要求されており、対応する資産除去債務の計上が必要になる場合があります。
この場合、通常であれば、負債計上(対応する除去費用も資産計上)するだけですが、敷金がある場合、その代わりに敷金を償却することもできます。具体的には、敷金のうち最終的に回収が見込めない金額を合理的に見積り、それを償却していく(当期の負担に属する金額を費用計上していく)ということです。
上記のとおり、原状回復費用を敷金の返還と相殺することもあるので、割とイメージしやすい会計処理ではないでしょうか。
4. 適用指針の設例
この点、資産除去債務に関する会計基準の適用指針の設例では、以下のような設定で、会計処理の例が示されています。
この場合、上記500を平均的な入居期間(5年)で費用配分し、毎期以下のような仕訳を切ることになります。
そうすると、返還時点では、すでに敷金の残高が減っていることになります。
5. 過年度に敷金が償却されている場合の返還仕訳
もし過年度に上記のような処理をしていれば、敷金の返還を受ける際にも調整が必要です。
ごくごくシンプルなのですが、過年度の償却費を振り戻すなどしてから、原状回復費用の確定額を修繕費(などの同一勘定)で計上するイメージで、そのタイミング(かもうちょっと後)で仮払消費税等も計上する感じになると思います。
6. 敷金償却に係る繰延税金資産の取崩し
ついでに、会計上の敷金の償却により繰延税金資産が計上されてたら、その取崩しも必要です。
そうすると、原状回復費用の計上(のうち損金算入分)による税金減額効果とうまく相殺される形になるので。
税効果は税効果で別処理する(一緒に仕訳は切らない)場合でも、損益インパクトを考えるうえでは、税効果仕訳もセットで考えたほうがいいと思います。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。