第15回 特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置を詳しく
引き続き「無形資産の譲渡取引とDCF法」シリーズです。
前回は「特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置」の位置付けをお話しました。
Table of Contents
1. 特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置の概要
制度の概要として、まず、この価格調整措置がどういう場合に適用されるか(発動するか)をお伝えしました。
基本的には、法人が行った特定無形資産国外関連取引に関して、その対価の額を算定するための「前提となった事項」について、その内容と相違する事実が判明した場合でしたね。
ただし、この前提となった事項は、特定無形資産国外関連取引を行ったときに、法人が予測したものに限られます。
そして、この価格調整措置が発動した場合、税務当局は「その相違する事実及びその相違することとなった事由(「相違事由」)の発生の可能性を勘案して算出した金額」を独立企業間価格とみなして、法人の所得の金額につき更正(または決定)することができることとされています。
2. これは後出しじゃんけんなのか
前回は、これを「後出しじゃんけん」的に所得を計算し直せる、とお伝えしたのですが、正確にはちょっと違います。
何か違うかというと、「完全な後出し」、つまり、実際に生じた収益等のみを基礎として、取引価格を算定することは許容されていないということです。シンプルにいえば、「実際には、無形資産の譲渡後にこれだけ収益等が発生したから、それを割引計算して譲渡時点の価値を再計算しました」というのはダメということです。
ちょっとややこしい言い方になりますが、この点は、事務運営指針でも言及があります。
まず、特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置において、独立企業間価格とみなされる金額を算定するにあたっては、単に「相違事由に基づいて算出された特定無形資産の使用等によって生じた利益の金額」を、DCF法における予測利益の額に置き換えて算定した金額は、独立企業間価格とみなされる金額に該当しないとされています。
これが、上記でお伝えした内容と同じです。相違事由というのは、シンプルにいうと「なぜ予測利益と実績が相違したのか」ということですね。
うーん。ややこしいですね。
3. 相違事由の発生の可能性とは
つまり、そもそもの相違事由の発生の可能性などを勘案することが必要ということになるのですが、要は以下の要件を満たしていなければならないということです。
(2) 通常用いられる方法により計算されたものであること
うーん。ここまで来ると笑みさえこぼれそうですが、何でこんな書き方するんですかね。
(1)については、逆にいうと、「後から判明した事実に基づいて計算してないよね」ということです。
この要件については、事務運営指針がもうちょっと説明していますが、例えば、特定無形資産国外関連取引が行われた時において客観的にその計算の合理性を判断できる資料(独立の第三者が作成した信頼性の確保された市場予測等)に基づいて計算しているか、が問題になります。
例えば、外部の評価機関が作成した評価算定書などで市場予測などが示されていて、実際利益がそれに近ければ、この要件は満たすと思います。
(2)については、当たり前ですが、「普通のやり方で計算しましたよね」ということです(たぶん)。
事務運営指針によると、その特定無形資産国外関連取引が非関連者の間で行われるとしたならば、通常実施されるであろう特定無形資産の評価方法として合理的と認められる方法で相違事由の発生の可能性を計算しているか、ということらしいです。
外部の評価機関が作成した評価算定書があれば、それと同じ方法で評価すれば要件は満たしそうですね。
このあたりはどうしても抽象的になるので、少し先のほうで、具体的なケースの形で確認します。
4. 実は発動基準があります
ただ、この特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置は、その独立企業間価格の算定に用いた事前の予測と事後の結果に相違が発生したら、即発動するものではなく、実際には発動基準があります。
普通に考えると、事前の予測どおりの結果になることのほうが少ないので、「ちょっとズレただけで、特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置を適用されたらたまらない」ということですね。
今回はここまでにして、次回はその発動基準を見ていきたいと思います。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。