第9回 ケース:信用格付を基礎とする親子ローンの金利設定(移転価格税制)
引き続き「金融取引」シリーズです。
Table of Contents
1. 金銭の貸借(親子ローン)取引に独立価格比準法に準する方法を使うケース(参考事例集)
今回は、親子ローン取引に対して独立価格比準法に準ずる方法(と同等の方法)を使うケースを見てみます。参考事例集の事例4(前提条件2)です。
2. ケースの前提条件
まず、ケースの設定は以下のとおりです。
(1) 登場人物
日本親会社:製品Aの製造販売会社。金銭の貸付け等を業としていない
海外子会社:製品Aの製造販売子会社(X国)。金銭の貸付け等を業としていない。業績は好調であり、日本親会社からの支援を必要とするような状況にはない
海外子会社:製品Aの製造販売子会社(X国)。金銭の貸付け等を業としていない。業績は好調であり、日本親会社からの支援を必要とするような状況にはない
(2) 国外関連取引の内容
- 日本親会社は、海外子会社の製造ライン増設に必要な設備投資資金について、X国通貨建てにより海外子会社に貸付けを行った
- 主な条件は、期間10 年、年利1%(固定金利、単利)、利払いは年1回
- 当該貸付けは、全て日本親会社の自己資金を原資としており、日本親会社がX国通貨に換算の上、海外子会社に送金したものである
(出典:国税庁 移転価格事務運営要領 「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」)
(3) 両者の資金調達実績等
- 日本親会社及び海外子会社は金融機関以外の非関連者との間で金銭貸借取引を行ったことはない
- 海外子会社これまでに銀行等からの借入れがないが、日本親会社は、主取引銀行であるT銀行から運転資金を融通する目的で期間1年以内の短期借入れのみ行っている
(4) 両者の信用リスク等(と比較可能性分析)
- 外部信用格付機関が公開している情報によると、日本親会社の信用格付はA、海外子会社の信用格付はBとされている
- 公開データベースより、国外関連取引と同時期にX国に所在する信用格付Bの法人が、国外関連取引と同様の条件で借り入れる金銭の貸借取引に係る情報が複数把握されたが、これらの金銭の貸借取引の利率の平均は3%であった
- T銀行に照会したところ、国外関連取引と同様の条件で海外子会社が借り入れた場合に付されるであろう利率及びスプレッドに関する情報が得られた
- ただし、これらは融資の審査・承認を経て実際の取引において適用されたものではなく、見積り上の指標に過ぎない
3. 移転価格税制上の取扱い
このケースについて、移転価格税制上の取扱いは以下のとおりです。
(1) 独立企業間価格の算定方法の選定
(海外子会社と同程度の信用力である)Bの信用格付を有する法人が借り入れた金銭の貸借取引の利率の平均をもとに独立企業間価格を算定する「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」が最も適切な方法
(2) 独立企業間利率
これによると、日本親会社と海外子会社との間の金銭貸借取引に係る独立企業間の利率は3%となる
(3) T銀行に照会した利率及びスプレッドの取扱い
T銀行に照会した利率及びスプレッドについては、融資の審査・承認を経て実際の取引において適用されたものではなく、単なる見積り上の指標であるため、これらの利率及びスプレッドを比較対象取引として用いる方法は適切ではない
4. 少しだけコメント
この事例は、2022年6月の移転価格事務運営要領の改正時に大きく変更されています。
同改正前は、貸手の調達レートをベースに金利設定する事例だったと思います(現在は認められていない方法です)。
それが信用格付を用いて、信用力の比較可能性を検討する事例に変わりました。
このケースでは、海外子会社の信用格付(B)が分かるので、データベースからそれに対応する金利水準の情報を取っています。
また、その結果、3%という(比較対象取引の)平均利率を使っていますが、この点については、比較可能性が同等の比較対象取引が複数ある場合、それらに係る価格や利益率等の平均値を使うのもアリということで。
今日はここまでです。
では、では。
■移転価格税制に関するトピックの一覧はこちら
この記事を書いたのは…
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。