オススメの書籍紹介:『機関投資家に聞く』
このブログでは、不定期でオススメの本をご紹介しています。
今日は、今年上半期に読んだ中で一番面白かった本について。
Table of Contents
今回は『機関投資家に聞く』です
それはズバリ(←表現が古い)、『機関投資家に聞く』(旬刊商事法務編集部 編)です。
旬刊商事法務のインタビュー連載をベースにした本です。
タイトルどおり、機関投資家(アセット・マネジャー等)へのインタビューですが、インタビュアーはちゃんとした弁護士さんなので、内容は法務寄りというか、ちょっと堅い感じです。
当然ながら、笑いの要素はありません(そりゃそうか)。
なぜこの本を読んだのか
私がこの本を読むことにした理由は主に2つです。
1つは、様々な機関投資家のESG投資に対するスタンスに関心があったからです。
この点、求める情報はいっぱい見つかりました。内容的にはそこまで踏み込んではいないかもしれませんが、傾向を把握するという意味では十分でした(私のレベルでは)。
また、機関投資家だけでなく、「番外編」という位置付けで、ESGの情報ベンダーや指数プロバイダーへのインタビューも含まれていたのもよかったです。
そして、この本を読んだもう1つの理由は、「機関投資家がエンゲージメントを通じて企業にいい影響を与えたケース」に興味があったからです。
還元比率の改善などはよく聞きますが、それ以外でも、不採算事業からの撤退やコングロマリット・ディスカウントの解消の例も示されていて、結構言うことは言うんだなという印象です。
もうこの2点で十分満足したのですが(笑)、この本が本当に面白かったところは別にあります。
この本の面白かったところ
何より面白かったのは、個々のお話というよりは、「機関投資家が上場企業に対してどういう要望をしているのか」が垣間見えたところです。
やっぱり上場企業にとっては、「機関投資家≒資本市場」みたいな面があって(怒られそう)、機関投資家の動向は無視できません。
エンゲージメントとしての「対話」は重要なので、企業側としては、機関投資家側のニーズは把握しておく必要がありますし、逆に機関投資家側が納得しやすいロジックで物事を説明する必要があると思います。
そういう意味で、この本に書いてある内容は、ただ面白いだけじゃなくて、知識としてもすごく役立つんじゃないかと思います。
この本のおかげで
これは個人的な感想になりますが(というか、全部個人的な感想ですが)、私の場合、この本のおかげで、断片的な知識をうまく統合できた面もあります。
というのも、日々機関投資家に向き合っている企業の方々とは異なり、私のような立場だと、「投資家にこう言われた」みたいな話を間接的に聞くのみです。とはいえ、その頻度は高いので、そうすると断片的な情報だけがどんどん蓄積されていきます。
私がやっているプロジェクトの関係だと、余剰資金(海外子会社にあるもの)の問題が多いですが(私のお仕事はこちら)、そういう株主還元に直結する問題のほか、役員報酬・退職慰労金の問題や政策保有株式の問題なんかも、色々なところで耳にします。
この本を読めば、そういう様々な問題を、「機関投資家の視点」という1つの軸に沿って整理することができます。
もちろん「機関投資家の視点」といっても、1つの統一された見解があるわけではなく、投資家ごとにバラエティがあります。
例えば、議決権行使基準としてのROEの水準をどう考えるか(どの程度厳格に見るのか)なども、色々な考え方が示されていて、勉強になりました。私がよく直面する上記の余剰資金の問題なんかも、当然ながらROEの水準には影響してきますが、「海外子会社から余剰資金を還流させて、日本におけるその使途を検討する(示す)」みたいな普段のお話も、そういう全体像の中で俯瞰できたのはよかったです。
とにかくいい本
まあ、あんまり難しいことを言わなくても、機関投資家の生の声(と言っても本ですけど)が聞けるだけで十分貴重な経験だと思います。
そういう意味で、めちゃくちゃいい本です。
ついでに、最後の「座談会」も面白かったです。ちゃんとした弁護士さんなので、堅いですけど(笑)
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。