オススメの書籍紹介:『図解 海外子会社マネジメント入門』
このブログでは、不定期でオススメの本をご紹介しています。
いま自分で本を書いているので、当面、そこに参考文献として挙げる予定の本について書きます。
Table of Contents
今回は『図解 海外子会社マネジメント入門』です
今回は、『図解 海外子会社マネジメント入門』(毛利 正人さん 著)という本です。
この本は、「ちょっと分野は違うけど、自分で本を書くときの参考になるかな」と思って、最近読みました。
が、もっと早く読むべきでした。一言でいうと、いい本です。
海外子会社管理に携わる人は、多少分野が違っても、読んでおいて損はないと思います。
どんなことが書いてあるか
この本の章立ては以下のような感じです。
第2章 海外子会社に対するガバナンスの手法と体制
第3章 海外子会社に対するガバナンスのデザインと導入事例
第4章 経営のグローバル化に伴うさまざまなリスク
第5章 海外子会社におけるリスクマネジメント活動の展開
第6章 海外子会社におけるコンプライアンス活動の展開
第7章 不正の予防・早期発見のための内部統制と内部通報制度
第8章 海外子会社に対する内部監査活動の展開
一言でいうと、海外子会社に関するリスク・マネジメントということになるんでしょうか。
私がお仕事で扱うのは、主に数字に関する部分なので、「ガバナンス」などの概念的な話はちょっと苦手です。いや、その重要性は理解していて、そういう面でのアドバイスもするのですが、あんまり概念先行で「ガバナンス、ガバナンス」みたいに言われると、ちょっとイラっときます。
その点、この本は、そういう分野でも説明はさらっとしていて、いい感じです。概念ばかりでなく、実務に沿う形でシンプルに説明してあるので、個人的にはすごく参考になる部分が多いです。
この本のすごいところ=まとめ方が秀逸
この本は、タイトルにあるとおり「入門」なので、扱っている内容は広く浅くですが、とにかくまとめ方が秀逸です。
例えば、海外子会社不正など、自分がある程度詳しい分野で見ると、エッセンスだけを簡潔にまとめてくれており、センスを感じます(偉そうに言っているわけではなく、単純にすごいなと思って)。
また、タイトルに「図解」とあるとおり、見開きの左ページに「図」、右ページに「解説」、という構成です(わかりづらいかもしれないので、Amazonで試し読みしてみてください)。
なので、実質はページ数の半分の記述で、私は30分弱で読み終わりました。
だからといって内容が薄いということは全くなく、ポイントだけを知識として吸収できるので、非常に効率的です。
ほんといい本だなと思います。
共感することが多い
私の専門分野は、この本とは若干ズレがあるので、きっとこの本のメインではない部分なのですが、個人的な仕事の感想として、共感するところがめちゃくちゃ多く含まれていました。
以下でちょっとだけご紹介します。
…駐在員は高コストになりがちで、駐在員数が多いほど利益に対する圧迫要因になります。
これ、私もいつも言ってるんですけど、駐在員が高コストだということはよく認識しておくべきです。
例えば、移転価格税制などで海外子会社の利益水準を考えるとき、駐在員の人件費は無視できません。特に日本側の給与較差補填を減らしていくと、どんどん海外子会社の利益が圧迫されます。そうすると、TNMM的には…みたいなお話です。
…現地の執行トップである社長は、必ずしもすべての情報を部下である日本人駐在員に開示するとは限らないという点です。正式な報告はあげているので、余分な情報提供に伴う本社からの干渉は極力排除したいといった考えなどによるものです。しかし日本本社にはそのような事情がわからず、ガバナンスロールが期待される駐在員(たとえば副社長)は本社からの期待と現実とのギャップに悩むことがあります。
これも、現地の駐在員の方々には「あるある」だと思います。
日本側は、ともすると「駐在員は何でも知っている」という前提で現地に問い合わせますが、それはかわいそうです。
現地スタッフにしてみたら、「駐在員≒日本親会社」なので、駐在員に隠していることは絶対にあります。
そうでなくても、ちゃんと駐在員の出身部門を見て、管理部門ではないのであれば、ある程度手加減(というかサポート)してあげたほうがいいです。かわいそうだから。
本来、海外子会社に対する支援であるはずの本社コーポレート部門による活動が、結果として海外子会社側の過大な負担感を醸成し、活動を形骸化させてしまっては元も子もありません。日本本社内のセクショナリズムを極力排し、調整・工夫することによって類似の活動を統合することが重要です。
これなー。駐在員の皆さん、涙を流して喜びそう。
海外子会社の現地スタッフと直接やり取りしていると、よく日本側のことをsilo, siloと言ってるのを聞きます(笑)
私のように海外子会社管理をサポートする立場でも、正直なところ、中堅企業くらいで、日本側の管理部門が細かく分かれていないほうが海外子会社管理はやりやすいです。
もちろん、1つ1つのお仕事の質を上げるためには、連結決算も移転価格税制対応も一般的な子会社管理も、業務を分けたほうがいいのだとは思うのですが、たぶん横のコミュニケーションがもう少しあったほうがいいということなんだと思います。
最後に
後半は妙に力が入ってしまいましたが、たぶんそれは、この本が実務経験に基づいたものだからだと思います。
日本側の管理体制は「どうせ改善されないだろうから仕方ない」みたいに、所与として扱ってしまっている部分も多かったので、そういうところも、本当は根本から見直すべきなんだよな、と反省させられました。
私よりもっと、この本に書いてある内容がどストライクの方がいらっしゃると思うので、そういう方々には本当にオススメの本です。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。