KAM本適用:収益認識④ 顧客検収前の収益認識に関係する事例
引き続き監査のお話です。
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収益認識に関するKAM(監査上の主要な検討事項)
2021年3月期からKAM(監査上の主要な検討事項)の記載(本適用)が始まったので、ざっと分野別に事例を見ており、いまは収益認識に関するKAMについてです。
前々回と前回は探していたもの
収益認識に関するKAMについて、全体の傾向らしきものは最初にまとめました(以下の記事です)。
で、前々回と前回は、個人的に探していたKAMについて書きました。
具体的には、前々回が「出荷基準」に関係するKAM、前回が「輸出取引」に関係するKAMです。
今回は探していなかったもの=顧客検収前の収益認識
今回は特に探していたものではないのですが、「よく書いたなあ」というものがあったので、ご紹介します。
乱暴に要約すると、顧客が検収を完了した日に収益認識しそうなタイプの取引なのですが、実際にはそれよりも前の段階で収益を認識する(ケースがある)ものです。
…会社は、装置の販売について、会社が装置を設置し、動作を確認することで、財貨の移転又は役務提供の完了及び対価の成立が確認できるため、その時点(設置後動作確認時点)で収益を認識している。
(下線は追加)
当該基準を採用している理由は、取引慣行により、据付作業が完了しているにもかかわらず、顧客の検収までに時間を要することが多いためである。また、一部の装置に関しては、取引慣行から据付の完了時において据付作業に関する顧客の確認サイン等の入手が困難であり、自社における設置後動作確認の完了をもって、収益認識している。
そのため、設置後動作確認時点が正しく認識されなかった場合、売上高が適切な会計期間に計上されない可能性がある。
会社は、設置後動作確認時に正しく収益認識するため、以下の内部統制を整備、運用している。
…
当監査法人は以下の理由から装置売上の期間帰属の適切性の検討が監査上の主要な検討事項に該当すると判断している。
①上述の通り、装置売上の一部に関しては、据付の完了から顧客の検収までに時間を要することが多く、内部証憑に基づき設置後動作確認時に収益認識しているため、検収証憑、入金証憑といった外部証拠に基づき、売上の裏付けを検討できない。
②収益認識時点の検証に関して、内部証憑を補完する複数の監査証拠の入手、判断が必要となる。
私の経験が偏っているだけかもしれませんが、こういうものって、実務では珍しくないようにも思います。
ただ、なかなか大っぴらに言うのは難しいことなので、KAMすげー、監査法人の方々すげーとなりました(感想文)。
KAMの位置付けの再確認
ここからは、ちょっとだけ真面目に書きます。
KAMについては、関連する財務諸表における注記事項がある場合、その注記事項を参照します。
しかしながら、上記のKAMは、特にどの注記も参照していないようです。
この企業は日本基準で、かつ収益認識会計基準を早期適用していないので、参照できる注記がないのだと推測されます(「事業等のリスク」のところで、「検収作業の長期化」みたいなリスクには触れているようですが)。
一方で、大前提として、監査報告書におけるKAMの位置付けとしては、「経営者に求められている財務諸表の表示及び注記事項、又は適正表示を達成するために必要な財務諸表の追加的な注記事項の代替」であってはいけないわけです。
だから、こういう内容を書くのは、相当勇気が必要なことだと思います。
でも、逆にこういう内容を書かないことにも勇気が必要です。
というのも、これを書かなくて、万が一何かあったときは、過去のKAMは間違いなく遡って見られるので、「何で書いてないの?」と言われるのは目に見えているからです(知らんけど)。
このKAMが監査の専門家の方々からどのように捉えられるのかは分かりませんが、私が投資家やアナリストなら、この内容(や監査人がこの内容を特に重要だと考えている事実)は知っておきたいなと思います。
そういう意味で、素人の観点からは、監査法人の方々はGJだったと思います。もし自分がその立場だったらと思うと… 本当にお疲れ様でした!
顧客による検収の意味合い(おまけ)
以下はおまけです。
上記の事例とは異なり、顧客から文書がもらえてさえいればOKかというと、実際にはそんなことないと思います。
以下はまた別の事例(収益認識に関するKAM)です。
連結財務諸表注記(会計方針の変更)「収益認識に関する会計基準等の適用」に記載のとおり、会社は当連結会計年度より収益認識に関する会計基準を早期適用の上、○○○事業セグメントにおいて顧客より「搬入据付確認書」を受領し当該確認書上の日付で収益認識を行っている。
(下線は追加)
このうち○○○ライン等(自動化ライン等)は○○○事業の報告セグメント「日本」の売上高■■■百万円の■■■%を占めているが、汎用機と異なり顧客仕様の要素が強く搬入据付後においても営業上のサービスとして焼成時間の調整や安全稼動のための警報機の追加などの顧客要望に対応することがある。ここでは通常軽微な仕様変更を前提としているが、重要な仕様変更や不良対応が搬入据付後に行われていたならば、搬入据付時点で当初の契約上の履行義務が充足されず、期間帰属に疑義が生じる可能性が想起される。
これもあるあるではないでしょうか。
結局のところ、顧客による検収タイミングで収益を認識するとしても、監査で確認できるのは、紙っぺら一枚だったりもしますよね。もちろん、検収に至るまでの経緯は、社内文書などで確認はできますけど。
しかも、実際には先方都合で無理やり3月検収にしたりとか… いや、これは単なる想像で、そんなケース、私は一度も目にしたことはないのですが。
ちなみに、上記のKAM、最後は期間帰属に疑義が生じる可能性が「想定される」のかと思いきや、「想起される」なんですね。ということは、過去にそういう疑義が生じたことがあり、(遠い目で)それを回想しているというニュアンスなのでしょうか。だからこそKAMに選定したのであれば、非常に深いですね。
今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。