インボイス制度:免税事業者との取引が損益計算書に与える影響
消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)について、ここ数か月の議論のアップデートです。
今回のテーマは、免税事業者との取引が損益計算書に与える影響です。
Table of Contents
1. インボイス制度 政府の取組みの方針
税務通信(3754号)に財務省主税局へのインタビュー記事があります。
感じ方は人それぞれだと思いますが、個人的には、あまりしっくりこない内容でした。
2. 損得は損益計算書に表れる
それはそれとして、記事の中で、「免税事業者との取引について、損益計算書への影響という観点で考える」みたいな説明があって、その部分はわりと企業の視点に近いのではないかと思いました。
企業にとって「どれくらい得か、損か」についての指標は損益計算書に表れる、みたいな発想です。
3. 免税事業者との取引が損益計算書に与える影響
記事には簡単な数値例が示されており、さっぱりと前提条件を書くと、以下のとおりです。
- 現在は、修繕費として税込110を払っている
- これは相手方が課税事業者であろうが免税事業者であろうが同じ
- 修繕費は費用処理(損金算入)される
- 税率は10%
- 税抜経理を採用
(1) インボイス制度の導入前
インボイス制度の導入前は、損益計算書には「修繕費100」が計上されます(仮払消費税等が10)。
これは適格請求書発行事業者との取引でも、免税事業者との取引でも同じです。
(2) インボイス制度の導入後
一方、インボイス制度の導入後は、適格請求書発行事業者との取引と免税事業者との取引で、損益計算書に与える影響が異なります。
適格請求書発行事業者に110を支払った場合、修繕費100が損益計算書に反映されます(従来と変更なし)。
一方、免税事業者に110を支払った場合、仮払消費税等(というか、控除可能な消費税額)がないので、支払った110の全額が本体価格となります。つまり、修繕費は110で、これが損益計算書に反映されます。
つまり、同じ金額を支払った場合、免税事業者との取引によるコスト負担は、適格請求書発行事業者との取引の1.1倍になるということです。
もちろん、実際には経過措置があるので、その期間においては、修繕費はもう少し小さくなります。
具体的には、80%控除の期間は102、50%控除の期間は105ということです。
4. そういうことじゃないんだよな感
なので、税務通信の記事では、「適格請求書発行事業者への支払額」と「免税事業者への支払額の1.02倍」が等しく取り扱われ、それを前提に価格を比較すればよい、みたいな発想が示されています。
数字で遊ぶならそういう感じなのだとは思います。
同じく、記事の後ろのほうで、以下のようなQAが示されています。
よくある質問:
営業職員が打ち合わせをするのに免税事業者の喫茶店は使わないようにした方がいいですか?
仮に、現在でも『周辺の喫茶店に比べて2%や10%割高な喫茶店は使わない』といったことを社内で決めているのであれば、それと同じです。いかがですか。ちなみに免税事業者は、消費税を納めていない前提で値段を決めて、ご商売されているでしょうね。
これも数字で遊ぶならそういう感じなのだとは思います。ただ、記事でも触れられているとおり、「経理担当者としてはインボイスに対応していないレシート等が手元にやってくるので、イレギュラーな処理になる手間はあるかもしれません」という点が、個人的にはほぼ全てだと思います。
社内人件費を無視した議論は意味がないような気がしますが、まあ、財務省の方も大変なんだと思います。
今日はここまでです。
では、では。
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佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。