第4回 ローカルファイルの記載例:機能(及びリスク)
引き続き「国外関連取引の内容等の検討」シリーズです。
ここまでは、比較可能性分析にあたって、自社及び国外関連者の「機能及びリスク」を事前に分析しておくことが大前提になるということをお伝えしてきましたが、今回は、そのうちの「機能」について、移転価格文書(ローカルファイル)への記載という視点で見てみたいと思います。
Table of Contents
1. ローカルファイルに含まれる書類
ローカルファイルには、「国外関連取引において法人及び国外関連者が果たす機能並びに負担するリスクに係る事項を記載した書類」が含まれます。
つまり、ローカルファイルには、法人及び国外関連者がどのような機能を果たし、どのようなリスクを負担しているのかを記載しなければならないということです。
2. 機能の具体例
機能についていうと、具体的には、法人及び国外関連者の国外関連取引に係る機能を、誰がどこでどのように果たしているかを記載しますが、機能の具体例としては、以下があります。
3. 「誰がどこでどのように機能を果たしているか」
上記の「誰がどこでどのように機能を果たしているか」というのは、非常に漠然とした表現ですが、例示集(国税庁 「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)作成に当たっての例示集」)が、この点について重要と思われる要記載事項に言及しています(以下です)。
- 機能を果たすための重要な判断や決定を誰がどこでどのように行っているか
- 機能を果たすための費用の負担は誰がどのように行っているか
- その機能は基本的な(基本的活動のみを行う法人の)機能とは異なる独自の機能であるか(独自の機能と判断した場合には、その理由)
これって、かなり基本的なことのように思うのですが、実際に上記のような情報をちゃんと収集するのは結構大変です。ちょっと先で確認しますが、機能の整理表みたいなものを作ろうとすると、虫食いになったりします。
4. ローカルファイルの記載事項(必要な情報)
また、例示集では、必要な情報の例として、以下が挙げられています。
…その部署に属する係・ライン、所属する人員及び職制(例:研究職、営業職、営業補助職等)を含み、(基本的活動のみを行う法人の機能とは異なる)独自の機能がある場合には、その内容を含みます。
・国外関連取引に係る契約条件
…例えば、価格条件、貿易条件、決済条件、返品条件、契約更改条件など
5. 必要な書類
そして、例示集においては、準備する書類として、以下が列挙されています。
- 法人及び国外関連者の経営組織図、所属員数表、業務分掌表(または業務規定)、業務フロー図、有価証券報告書、会社案内及びホームページをアウトプットしたもの
- 法人及び国外関連者の間の契約書(覚書、取決めを含みます。)
- 国外関連取引の取引フロー図
- 法人及び国外関連者の事業計画、当該事業計画に係るりん議書、出張りん議書及び出張報告書
- 法人及び国外関連者の各種会議資料並びに当該会議議事録
- 国外関連取引に関する投資計画書及び研究開発計画書
- 法人または国外関連者の事業再編等に係る計画書、りん議書、報告書及び各種会議資料
シンプルにいうと、「自社と国外関連者がそれぞれ何をやっているかが分かる資料」が必要ということですね。ローカルファイルのこの項目のためだけに準備すべき資料というよりは、ローカルファイルの他の項目でも使える書類が多いです。
いつものことですが、既存の書類では情報が不足する場合には、必要な情報を記載した書類を適宜作成する必要があります。
6. ローカルファイルの記載例(作成サンプル)
で、さらに具体的に見ていくと、作成サンプル(国税庁 「同時文書化対応ガイド ~ローカルファイルの作成サンプル~」)では、以下のような記載があるので引用します(A社というのが国外関連者です)。
国外関連取引に係る当社とA社の機能及びリスク
⑴当社について
イ 機能
(イ) 製造
当社は、国内にある3か所の工場で、製品Xの製造を行っています。特に、○工場については、○○研究所を同敷地内に併設しており、新技術を導入し量産化するまでの軌道に乗せるマザー工場の役割を果たしていますので、グループの中で重要な役割を果たしている工場であるといえます。○工場の技術支援の担当者は、国内での製品の製造に従事しているほか、製品Xの製造を行う国外関連者の技術指導、トレーニングも行っています。
(ロ) 調達
購買部では、原材料の調達を行っていますが、特に製品の質を左右する原材料や部品の調達先の選定に力を入れています。その他、海外で製造を行う国外関連者が使用する原材料や部品の調達先の選定も行っています。
製造管理部では、機械設備の組立の依頼先や調達先の選定を行っており、国外関連者が製造ラインに新しく機械設備を導入する際には、機械設備を熟知している製造管理部の担当者を、据付け、稼働チェックや操作の指導のために国外関連者へ派遣しています。
(ハ) 営業及び広告宣伝
当社における営業と販売については、営業統括部がグローバルな営業戦略の企画立案を行い、顧客の新車販売計画に関する情報の収集や顧客への新製品の紹介を行っています。また、海外営業部では、日系顧客の海外進出計画や販売計画等に関する情報収集を行い、各国の国外関連者へ収集した情報を提供しています。
広告宣伝部では、グループ全体の広告宣伝の戦略を策定し、業界専門誌への掲載や展示会への参加などを積極的に行いながら、国外関連者が行う広告宣伝活動の管理も行っています。
(ニ) 研究開発
研究開発については、当社は大規模な研究施設を備えた○○研究所を○県○市に所有しており、そこでグループの研究開発業務を一括して行っています。同研究所にある研究開発部では、基礎研究、新製品の開発、製造技術の開発を行っていますが、製品Xは成熟した製品のため、近年は基礎研究よりも応用研究が中心となっており、製品Xに使用する素材の研究や製造技術の低コスト化が課題となっています。
また、同研究所には、新製品の企画や設計を担当する設計部があり、製品の金型の設計や製作を行うほか、製造工程上の重要な部分を担う機械設備の設計も行っています。当社の設計した図面に基づいて組み立てられる機械設備(組立は第三者)は、国内外の製造拠点で使用されています。なお、同研究所で設計した機械設備以外の機械設備については、すべて第三者から購入した機械設備になります。
(中略)
添付資料16 当社の組織図に所属員数表、業務分掌表(または規定)を追加したもの
添付資料17 国外関連取引に係る当社及びA社の機能に関する整理表⑵ A社について
(略)
上記は日本側だけの情報ですが、色々な部署(下線部分)が色々な機能を果たしていることが読み取れると思います。
こういうものをご覧になって頂くと、漠然とした「機能」がもうちょっと具体的に見えてくるんじゃないでしょうか。
ちなみに、機能とリスクに関する整理表というのもよく使うので、それもまた見てみたいと思います。
今日はここまでです。次回は「リスク」のほうを確認したいと思います。
では、では。