支店扱い(disregarded entity)になる米国LLCの租税負担割合の計算
今日も少し普段のお仕事のことを書きます。
Table of Contents
1. タックス・ヘイブン対策税制
最近、タックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)に関するご相談を頂くことが多いので、そのことについて。
今回も、前回に引き続き、米国LLCのようにパススルー課税が適用される場合のお話ですが、今回はもうちょっと限定して、米国LLCに一人の株主しかいないケースについて書きます。
2. 支店扱い(disregarded entity)になる場合の租税負担割合の計算
前提として、米国LLCに一人の株主しかいない場合、米国連邦税法上は、(その株主の)支店扱いになります。
いわゆるdisregarded entityというやつです。
こういう米国LLC(=外国関係会社)について、「租税負担割合をどのように計算するか」という問題ですが、結論は前回と同じで、そのLLCがあたかも単体申告しているかのように取り扱います。
もう少しちゃんと言うと、支店扱いされる米国LLC(=外国関係会社)に対して法人所得税が課されるものと仮定して、その本店所在地国(米国)の法令の規定により所得の金額を計算するということです。
ただ、前回と違うのは、disregarded entityの場合、米国連邦税法上、課税所得をLLC単体で計算する必要がなく、Form1065(情報申告書)やSchedule K-1みたいな(個別の損益に関する)情報がない可能性があるという点です。
3. 支店扱い(disregarded entity)になる米国LLCの租税負担割合の計算
この点、「連結納税規定等が適用される外国関係会社の適用対象金額等の計算方法等の改正に関するQ&A」に、もう少し詳しく解説されています。
(1) 前提条件
まず、前提条件は以下のとおりです。
(2) 所得金額(分母)の簡便計算
租税負担割合の分子(租税の額)の計算方法は、分母(所得金額)をベースに、単体納税制度の規定を適用して計算するだけなので、ここでは、所得金額の簡便計算の方法について。
Q&Aでは、この場合のS2社(LLC)の所得の金額の簡便計算の方法として、3つの計算方法が挙げられています。
具体的には、想定されるパターンを挙げて、そのそれぞれについて、合理的な計算方法を示す形です。
① S社の活動が無い場合
S社の申告所得金額をS2社の所得金額とする方法
これは、S社(LLCの株主)に活動がないパターンです。
この場合、その株主の申告所得金額をS2社(LLC)の所得金額とする方法でOKです。
ラクですね。
② S社の所得金額を計算できる場合
S社の申告所得金額から、その計算したS社の所得金額を除いた金額をS2社の所得金額とする方法
次に、主にS社(LLCの株主)がそんなに活動していないパターンです。
この場合、まず、S社の(単体)所得金額を仮定計算します。
で、その計算結果を実際の所得金額から除外します。
そうすると、それがS2社(LLC)の所得金額になるというロジックです。
これもそんなに大変じゃないと思います。
③ 上記以外の場合
S2社の試算表上の利益の金額に、以下の調整を行う方法
・S2社の会計上の利益の金額(試算表における利益金額)から、会計と米国税法の差異のうち一定のもの(非課税所得など、いわゆる永久差異となるもの)を米国税法の金額に調整し、その方法を継続的に適用する
・米国連邦税法における繰越欠損金額の控除に係る規定を適用したものとする調整を行う
・企業集団等所得課税規定の適用にあたり選択された規定に相当する規定については、その規定の適用要件等からその外国関係会社が適用を受けることができないものを除き、その規定を適用したものとする調整を行う
問題はこのパターンです。
S社(LLCの株主)が結構活動していると、その所得金額を仮定計算して除外するのは難しいと思われます。
そういう場合の簡便計算が上記③ですが、簡便計算とはいっても、前提として、LLCが試算表(または損益計算書)を作成していることが必要になります。
で、試算表における利益金額(会計上の利益の金額)に対して、会計と米国税法の差異のうち一定のもの(非課税所得などのいわゆる「永久差異」)を加減算して、米国連邦税法上の金額に調整するイメージです。
それさえ済めば、残りはいつもの調整で、繰越欠損金額の控除に係る調整と、企業集団等所得課税規定の適用に係る調整を行っておけばOKです。
なお、この③の方法については、Q&Aにおいて、「この方法では、いわゆる一時差異を調整していないため、各事業年度単位では必ずしも米国税法の金額に近似する金額とはならない可能性もありますが、S2社の所得計算に必要な根拠資料を揃えることが困難な中、この方法を継続的に適用している限りにおいては、合理性を有するものと考えられます」と解説されています。
割り切っていいってことですね。
めんどくさい作業
上表②のS社の所得金額を計算する場合や、上表③のS2社の永久差異を計算する場合には、その計算方法について、海外子会社の担当者(または会計事務所)にその内容を確認する必要があります。
めんどくさ。
また、LLCとその株主について、会計上の利益を個別に把握できることが前提になっているので、そもそもそういう情報がなければアウトです。
まあ、厳密に計算しなくても、「どうせ租税負担割合は20%~30%の間だからいいかー」みたいに言えればいいんですけどね。
ということで、今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。