インボイス制度:水道光熱費の未払計上に係る仕入税額控除
前回に引き続き、消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)についてです。
今回も、仕入側の視点で、仕入税額控除のお話です。
Table of Contents
0. この記事のポイント
1. 請求書等未着で未払費用を計上する場合
インボイス制度の下では、原則として、一定の事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の要件とされています。
一方で、実務では、請求書等が未着の場合でも、未払費用を計上するケースがあります。このとき、インボイス制度の下では、仕入税額控除はどうなるのでしょうか?
2. 見積額が記載された適格請求書の保存
このテーマ、Q&A(消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A)をざっと見ただけでは見つからないかもしれませんが、実は「見積額が記載された適格請求書の保存等」というQに解説があります。
「見積額で仕入税額控除を行う」というと、レアなケースに聞こえるかもしれませんが、これは結構身近なものです。
例えば、期末に水道光熱費を未払計上している場合なんかもこれに該当します。
Q&Aの設定では、「水道光熱費など検針等に一定期間を要し、課税仕入れを行った課税期間の末日までに支払対価の額が確定しない課税仕入れ」がテーマとして取り扱われています。
要は、これについて見積額による仕入税額控除ができるかどうかですね。
3. Q&Aにおける2つの場合分け
課税期間の末日までにその支払対価の額が確定せず、見積額で仕入税額控除を行う場合の取扱いについては、Q&Aでは以下の2つの場合分けが示されています。
(2) 見積額が記載された適格請求書の交付を受けられない場合
以下では、それぞれの場合の取扱いを見ていきます。
ちなみに、(1)(2)いずれの場合でも、その後確定した対価の額が見積額と異なるときは、その差額を、その確定した日の属する課税期間における課税仕入れに係る支払対価の額に加減する必要があります。
2022年11月のQ&Aの改訂により、仕入税額の計算方法として、割戻し計算を採用している場合、「確定した対価の額と見積額との差額」をその確定した日の属する課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に加減すべきことが明確化されました(当たり前ですけど)。
(1) 見積額が記載された適格請求書の交付を受ける場合
(1)はマイナーなケースかもしれませんが、取引の相手方から見積額が記載された適格請求書の交付を受けられれば、それを保存することで見積額による仕入税額控除が認められます。
その後、確定額が見積額と異なる場合には、確定額が記載された適格請求書(対価の額を修正した適格請求書)の交付を受けた上で、これを保存する必要があります。
(2) 見積額が記載された適格請求書の交付を受けられない場合
一方、(2)は見積額が記載された適格請求書の交付を受けられない場合であり、こちらがより一般的なケースかと思います。
この場合の取扱いとして、Q&Aでは、電気・ガス・水道水の供給のような適格請求書発行事業者から「継続して行われる取引」については、見積額が記載された適格請求書の保存がなくとも、課税期間の末日の現況により適正に見積もった金額で、仕入税額控除を行うこととして差し支えないこととされています。
ただし、その後、金額確定時に交付される適格請求書を保存することが条件になります。
余談ですが、上記のような「継続して行われる取引」の例としては、水道光熱費以外でも、「機械等の保守点検」や「弁護士の顧問契約」が挙げられています。
「インボイス制度」とか「適格請求書等保存方式」とか言われると、適格請求書の保存がないとNGになりそうですが、別にそうでもないってことですね。
今日はここまでです。
では、では。
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佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。