グローバル・ミニマム課税:当期純損益金額に対する調整⑤ 非対称外国為替差損益

いまは不定期でグローバル・ミニマム課税について書いています(全体の構成はこちら)。
今回は、(特例適用前)個別計算所得等の金額の計算という文脈で、当期純損益金額に対する調整の5つ目、非対称外国為替差損益に関する調整について。
Table of Contents
1. 調整内容要約
まず、国税庁のQ&Aをベースにして、調整(加減算)内容を書くと、以下のとおりです。
(1) 会計・税務機能通貨間の為替変動による税務上の利益の額とされている金額(反映)
(2) 会計・税務機能通貨間の為替変動による当期純損益金額に係る損失の額としている金額(取消)
(3) 第三通貨・会計機能通貨間の為替変動による当期純損益金額に係る損失の額としている金額(取消)
(4) 第三通貨・税務機能通貨問の為替変動による利益の金額(反映)
-次に掲げる金額の合計額
(1) 会計・税務機能通貨間の為替変動による税務上の損失の額とされている金額(反映)
(2) 会計・税務機能通貨間の為替変動による当期純損益金額に係る利益の額としている金額(取消)
(3) 第三通貨・会計機能通貨間の為替変動による当期純損益金額に係る利益の額としている金額(取消)
(4) 第三通貨・税務機能通貨間の為替変動による損失の金額(反映)
これは確かにそのとおりなんですが、全然さっぱりしてないですよね。
できるだけシンプルに言うなら、実効税率で考えた場合、分子は税務ベースなので、分母も税務ベースに合わせる感じです。
分母は当期純損益金額が基礎となるので、会計ベースの為替差損益が反映された当期純損益金額について、それを税務ベースの為替差損益に置き換える調整が必要ということで、上記の加減算はそういう意味合いで捉えておけばよいと思います。
ただ、「会計機能通貨 vs. 税務機能通貨」に加えて、「会計・税務機能通貨 vs. 第三通貨」もあるので、上記のようなごちゃごちゃした調整内容になるということだと思います。
2. 非対称外国為替差損益とは
非対称外国為替差損益の定義はよくわかりませんが、端的には、会計機能通貨と税務機能通貨が異なることによる為替差損益の相違です。
会計機能通貨というのは、当期純損益金額の計算において使用する通貨であり、税務機能通貨というのは、課税所得の金額の計算において使用する通貨なので、まあ語感のとおりです。
「機能通貨が米ドルのシンガポール子会社」みたいなのをイメージしていただければいいと思います。
あとはもう1つ、会計・税務機能通貨以外の通貨として、「第三通貨」というのも出てきます。
3. 非対称外国為替差損益に関する調整
具体的な調整内容については、国税庁のQ&Aの数値例を見ていただくのが早いとは思います。
ただ、少しだけまとめておくと、以下のような感じだと思います。
①取引通貨が会計機能通貨と一致
→税務上のみ為替差損益が発生
→実効税率の分子(税務ベース)が為替差損益を含むので、分母もそうなるように、当期純損益金額に税務上の為替差損益(を会計機能通貨に換算したもの)を加算
②取引通貨が税務機能通貨と一致
→会計上のみ為替差損益が発生
→実効税率の分子(税務ベース)が為替差損益を含まないので、分母もそうなるように、当期純損益金額から会計上の為替差損益を減算
③取引通貨が第三通貨
→会計と税務で異なる為替差損益が発生
→分母も税務っぽくするために、まずは当期純損益金額から会計上の為替差損益を減算し、次に税務上の為替差損益(を会計機能通貨に換算したもの)を加算
上記③については、第三通貨との間の為替差損益が課税所得に含まれるか否かにかかわらず、調整を行います(法基通18—1—42)。なので、実際にはもうちょっと複雑です。
4. 本当にこれを計算するのか
繰り返しになりますが、国税庁のQ&Aの数値例をご覧いただければ、そして虚無感に耐えれば、計算ロジックは理解できると思います。
ただ、実際にその計算を行う気力が湧くかといえば、それは別問題です。
そこで、会計機能通貨と税務機能通貨が同じであれば、この調整は不要になるという点が重要になります。
そのため、何をもって「会計機能通貨と税務機能通貨が同じ」と捉えるかについては、以下のPwCさんの本を参照したほうがよいと思います(営業妨害になるので内容は書きません)。
グローバル・ミニマム課税Q&A(PwC税理士法人(編)、PwC Japan有限責任監査法人(編))
今回はここまでです。
では、では。
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佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。社外監査役(東証プライム&スタンダード上場企業)。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。