土日に読む小説:追想五断章(米澤穂信)

(気分だけ)夏休みモードということで、週末は好きな小説のことを書いています。
目次
米澤穂信さんの『追想五断章』
今日ご紹介するのは、米澤穂信さんの『追想五断章』という本です。
先週は『満願』のことを書きましたが、私は米澤穂信さんの本(の一部)が結構好きです。
どんな話なのか
(以下はちょっとだけネタバレを含みます)
主人公は、経済的な理由から大学を休学して、古書店でアルバイトをしています。
が、ひょんなことから、ある依頼を引き受けます。
その依頼というのは、依頼人の亡父が生前に書いた5つの小説(リドル・ストーリー)を探すことです。
riddleは「なぞなぞ」という意味で、リドル・ストーリーというのは、謎だけが与えられて答えは与えられずに終わる物語です。
が、このケースは本当のリドル・ストーリーではなくて、依頼人がそれぞれの小説の最後の一文のみを持っています。
なので、探すのは5つの断章(最後の一文に至るまでの部分)、「五断章」ということになります。
つまり、答えだけ5つある状態で、謎のほうを探す形です。この構成自体がまず面白いですよね。
5つの断章
5つの断章(リドル・ストーリー)は少しずつ見つかっていきます。
断章の内容はすべて本文中に書いてあるのですが、それぞれの書き出しは以下のとおりです。
『奇蹟の娘』
嘗て欧州を旅行した折、ルーマニアのブラショフという街で、奇妙な話を聞いた。…
『転生の地』
嘗て南アジアを旅行した折、インドのジャーンスィーという街で、奇妙な話を聞いた。…
『小碑伝来』
嘗て中国を旅行した折、四川の綿陽という街で、奇妙な話を聞いた。…
『暗い隧道』
嘗て南米を旅行した折、ボリビアのポトシという街で、奇妙な話を聞いた。…
『雪の花』
嘗てスカンディナビアを旅行した折、スウェーデンのボーロダーレンにほど近い街で、奇妙な話を聞いた。…
断章(リドル・ストーリー)はすべて、海外の話です。
依頼人は、それぞれの断章の最後の一文を持っているので、それを組み合わせると、もはやそれぞれの断章は断章ではなくなり、リドル・ストーリーはリドル・ストーリーではなくなります。
5つの断章のそれぞれは、「奇妙な話だなあ」という印象です。
ただ、あるとき、各断章が、依頼人の亡父が関わった「アントワープの銃声」という事件に関係していることが分かります。
つまり、5つの断章を貫く1つのテーマがあるということで、断章に隠されたメッセージが見えてくる、という流れです。
どういうところが好きなのか
この話、全体の構成がよく考えられていると思います。
上記のとおり、5つの断章を書いたのは、依頼人の亡父なので、一人称で「想い」のようなものが語られることはありません。
また、主人公や依頼人などの登場人物が魅力的に描かれているわけではなく、淡々と話が進みます。
なので、ひたすら話の筋が面白いという感じでしょうか。
あとは、前回も書いたのですが、個人的には、米澤穂信さんが描く異国の様子を読むのが大好きです。
何となく「そういうもんかなあ」と思ってしまうという。
土日に読むのに最適
全体として、割とのめり込める話なので、気分転換には最適だと思います。
話の筋が面白いのと、「これが答えなのかな」と推測しながら読むと、それが当たったり、外れたりするので、ついつい一気に読み進めてしまう感じです。
ということで、今日はここまでです。
では、では。
佐和 周(公認会計士・税理士)
現 有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人を経て、佐和公認会計士事務所を開設。専門は海外子会社管理・財務DD・国際税務など。東京大学経済学部卒業、英国ケンブリッジ大学経営大学院(Cambridge Judge Business School) 首席修了 (MBA)。詳細なプロフィールはこちら。