令和3年度税制改正(国際課税) 経団連の提言④ 移転価格税制
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今日も税制改正のお話を続けます。
目次
経団連:令和3年度税制改正に関する提言
このシリーズでは、経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)の「令和3年度税制改正に関する提言」(2020年9月15日付)から、「国際課税」の分野で、気になった部分をご紹介しています。
今回は移転価格税制のお話です
外国税額控除制度→外国子会社配当益金不算入制度→CFC税制(タックス・ヘイブン対策税制)と来たら、次は移転価格税制です。
上記提言では、大きく以下の2つの項目に触れています。
(2) 経済の落ち込みを踏まえた臨時的移転価格ガイドラインの整備及び執行等
以下で順番に見ていきますが、今日はちょっと仕事モードなので、難しい話が嫌いな方はここで読むのをやめてください。
(1) 国別報告事項(CbCR)の2020年のレビュー
まずは、上記提言の(1)「国別報告事項(CbCR)の2020年のレビュー」です。
これはOECDが国別報告書に関して公表したパブリック・コンサルテーション・ペーパーに対応するもので、少なくともすぐに税制改正の対象になるものではないと思われます。ただ、レビュー対象の論点には、これに沿って改正されると結構キツイものがいくつかあります。
今回はそのうちの2つの論点をご紹介します。
論点12:Should information in Table 1 be presented by entity rather than by tax jurisdiction?
論点の1つ目です。
現行の国別報告書のTable 1(収入金額や税引前損益等の情報)は、「国別の」合計金額を記載することとされていますが、それを「構成事業体別の」情報に変更することが、論点として挙げられています。
この情報は普通に考えて出したくないものだと思いますが、以下の経団連の反応も同じような感じです。
…CbCRは制度の安定化の段階にあり、拙速な見直しは避けるべきである。仮に見直される場合でも、国ごと記載方式及び合計データ方式を維持すべきである。
(出典:一般社団法人 日本経済団体連合会 「令和3年度税制改正に関する提言」)
うん、そう言いますよね。
論点14:Should additional columns be added to Table 1?
もう1つの論点ですが、Table 1で提供すべき追加情報(additional columns)がレビュー対象の論点として挙げられており、そこでは以下のような項目の追加に対する意見が求められています(これ以外にもあります)。
• 使用料(related party royalty income / expense)
• 役務提供対価(related party service fee income / expense)
• 研究開発費(research and development (R&D) expenditure)
うーん。税務当局は国別報告書をhigh level risk assessmentに使うという触れ込みだったと思うのですが。。。こういうのをどんどん細かく出し始めると、そもそもの趣旨に反しないか?
この点に関して、経団連の提言は以下のとおりです。
…表1の記載項目の拡大(利子・使用料・役務提供に係る所得及び費用)を懸念している。変更する場合は、定義や範囲について明確化するとともに企業側のシステム改修等の実務コストの増大に配慮すべきである。なお、見直しに際しては、十分な移行期間を設けるべきである。
(出典:一般社団法人 日本経済団体連合会 「令和3年度税制改正に関する提言」)
最後の一文、ちょっと諦めも入ってるでしょうか。
どれも拾おうと思えば拾える情報だとは思いますが、こういう情報を海外子会社の税務当局が一覧できる状況は、ちょっとゾッとしますね。そして、せっかく楽に作れるようになってきた国別報告事項について、また新たに面倒な作業が入るという。。。
(2) 経済の落ち込みを踏まえた臨時的移転価格ガイドラインの整備及び執行等
次に、上記提言の(2)「経済の落ち込みを踏まえた臨時的移転価格ガイドラインの整備及び執行等」です。これは税制改正というよりは、OECDに対する追加ガイドラインの提供の要望という位置付けです。
シンプルにいうと、現在は新型コロナの影響があるので、そういう(ある意味)異常な経済状況のなかで、移転価格税制をどう考えていくかという大きなテーマが背景にあります。
上記提言が列挙する「講じるべき対応」には、以下が含まれます(他の項目もあります)。
・移転価格の経済分析におけるマクロ補正等の柔軟な取り扱い。
・異常事態に起因し生じる異常損失の定義の明確化。(中略)
・比較可能性分析で複数年度データを使用するものの、その一部が今次感染症の影響を受けている場合における、必要なデータの入手可能性や差異調整に係るガイダンス。
(出典:一般社団法人 日本経済団体連合会 「令和3年度税制改正に関する提言」)
新型コロナがもたらす困った状況の1つは、グループ全体として営業赤字になっているか、あるいはそれが見込まれるという状況だと思います。
この場合、海外子会社(国外関連者)の機能やリスクが限定的であり、TNMMを使っているようなケースでは、あまり子会社側に損失を負担させられないという問題があります。現地の当局は「なに受託製造会社に損失負担させてんの?」みたいなスタンスですよね。
一方で、子会社の利益を保証して、日本親会社側だけが営業赤字になると、今度はその損失負担の合理性を説明する必要があります。「販売会社のリスクが限定されてるからといって、損失は全部親会社が負担するロジックは?」みたいに言われそう。
それ以外でも、普通の比較可能性分析もやりにくいですよね。上記提言内容とは少し異なりますが、検証対象企業と比較対象企業、それぞれの決算期の問題で、新型コロナの影響が反映されるタイミングがそれぞれ同一ではない場合も、間違いなく揉めると思います。現実的には、補正や差異調整といっても、なかなかみんなが納得できる手法はないと思うので。
今日はここまでです。
終始真面目な感じで申し訳ありませんでした。